本書は明治〜戦後の女性画家の位置づけや戦時中の活動を、一次資料を基に丹念に探っていく。著者の吉良智子氏は美術史、ジェンダー史を専門とし、長年女性画家研究を重ねてきた。
「私が大学生だった1995年頃は、ジェンダーに関する授業が出始めた時期でした。また戦後50年ということもあり、戦争に関する話題も多かった。そのなかで戦下の女性画家に興味を持ちました」
戦前、女性の美術教育や美術団体への参入は男性よりも制限され、描く対象も花や静物が相応しいとされてきた。そんな女性画家の絵の対象を広げたのは、皮肉にも戦争であった。陸軍報道部の指導の下、女流美術家奉公隊(以下奉公隊)を結成。少年兵を描いた展覧会を催し、我が子を戦地に送る母の愛国心を煽った。
需要が生まれたとはいえ、女性画家の評価が高まったわけではない。前述の少年兵展覧会の展評からは、彼女たちに向けられた当時の眼差しが読み取れる。
〈子供の顔ひとつ満足に描けないくせに女流画家を以て任じてきたやうな連中が、かうした機会に素描力の不足を自己反省してみるといふのは大いに必要だ〉
こうした立場にいた奉公隊が、活動の記録として描いた油絵が《大東亜戦皇国婦女皆働之図》だ。44名による共同制作で、砲弾生産、鍛冶など42の労働現場がコラージュ的に配される。描かれるのは女性ばかり。男性不在の世界が広がる本作について、吉良氏は制作過程の調査やモチーフごとの分析を行う。
「奉公隊参加者にこの絵について尋ねると、『女も頑張っていると伝えたかった』と話していた。ある種の社会参加と存在証明への希求なのかもしれません」
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source : 文藝春秋 2023年11月号