
〈自分がそれなりに英語を解するようになると、アメリカに来たばかりの頃は親が英語で用を足すのを見ていたく感心したのをすっかり忘れて、私は両親の英語を心底ばかにするようになっていった〉
著者の吉原さんはニューヨークで生まれ、東京で子供時代を送った後、11歳から2年半ほどカリフォルニアで過ごした。東京大学卒業後、アメリカの大学院へ進学し、現在はハワイ大学で教授として教鞭を執る、日本語と英語という複数の言語話者だ。
本書は幼少期の記憶から、10代に送った“異国”での生活、米国移住後の恋愛遍歴などを赤裸々に綴った半自伝的な私小説。これまで『親愛なるレニー』『ドット・コム・ラヴァーズ』などのノンフィクションをものしてきた著者にとって、初の書き下ろし小説となる1冊だ。
「私が普段、大学でしている研究は“正論”を書くことが目的です。間違っていたり、不道徳的なことは書けません。でも、小説なら私のなかの“真実”を表現することができる。嫌われてもいいという覚悟で書きました」

両親に連れられ、全く言葉が通じない状態で現地の学校に入れられた「私」は授業についていけず友達もできなかったが、英語を覚えることで小さく孤立した世界を拡げていく。やがて「私」は両親や後から転入してきた日本人の同級生の未成熟な英語を軽蔑するようになる。
「前半は幼心に芽生えた、英語ができることによって生まれる“不当な優越感”を表現できたと思います」
大学卒業後、今度は自らの意志でまたアメリカへと渡る。ふたたび米国の地を踏んだ「私」は、自分自身と同じように英語が母語でない人々と出会い、交流するようになる。日系、ベトナム系、中華系、サモア系、エルサルバドル移民など、英語をゆるやかな蝶番として、人種や文化を巡るすれ違いが描かれていく。
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source : 文藝春秋 2023年12月号