反省なき者が戦後民主主義教育を空疎にした
この連載の前回を振り返っておこう。日本近現代史のなかで「時代の大いなる『転向』」と呼ぶべき事態が2度あったのではないかと私は述べた。一つは、明治時代に日露戦争などを契機として国論が民権論から国権論へと変貌したこと。もう一つは、太平洋戦争敗戦を機に社会のありようが軍国主義から民主主義へと国家的に転換したことである。
今回は後者について、何人かの人物に即して具体的に検証してみたいのだが、この「転向」が今日の私たちにも関わる重大な問題であるのは、次の5点にあると思われる。
(1)昨日まで「天皇のために戦って命を捨てよ」と神がかり的に軍国主義を喧伝していた人物が、戦後、一転して「平和と命が何より大切です」と言って民主主義の信奉者になるという、あまりにも性急な「転向」であったこと。
(2)その「転向」には時代が要請した必然性があったが、軍国主義への深い反省や、民主主義を我がものとする思索や行動がほとんどなかったこと。
(3)にわか仕立ての民主主義の牽引者は、政治、教育、メディア、学問など戦後日本社会の中枢に存在し、次世代を含めた国民の精神に強い影響を与えたこと。
(4)戦後民主主義の牽引者たちの言説は、戦時中の「非転向」を誇る共産党の神話と結びついて、戦後日本に特有の左派的な言論空間を作り上げ、これが一定の支配力を持ち続けたこと。
有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。
記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!
初回登録は初月300円
月額プラン
1ヶ月更新
1,200円/月
初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。
年額プラン
10,800円一括払い・1年更新
900円/月
1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き
有料会員になると…
日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!
- 最新記事が発売前に読める
- 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
- 編集長による記事解説ニュースレターを配信
- 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
- 電子版オリジナル記事が読める
source : 文藝春秋 2023年12月号