日本では残念ながら、リバタリアン(自由原理主義者)はQアノンの陰謀論にはまるトランプ支持の白人労働者のことだと思われている。だがいまや、「テクノリバタリアン」と呼ばれるベンチャー起業家たちが世界を変えつつある。話題作『イーロン・マスク』は当代随一の評伝作家が、その代表であるシリコンバレーの革命児に密着取材。狂気にも似た熱情の背後にあるものは何なのか。
マスクと並ぶシリコンバレーのリバタリアンがピーター・ティールで、両者は金融サービスのペイパルをめぐって競争し、共闘し、裏切り、和解した。怒濤のような数年間を描いた『創始者たち』を読むと、シリコンバレーが“天才”たちの能力を最大限引き出すためのシステムであることがわかるだろう。
数千億円、あるいは数兆円というとてつもない富を手にしたとき、ひとはなにを考えるのか。『デジタル生存競争』では、映画『マッドマックス』シリーズのような世界の破滅に脅え、生き延びるためにシェルターをつくる大富豪の秘密会合に呼ばれた体験が衝撃的。大きすぎる富はひとを幸福にするのではなく、逆に幸福を破壊するのかもしれない。
アメリカはマネーロンダリングをきびしく罰するが、同時にマネーロンダリング天国でもある。『クレプトクラシー』は、州同士の「底辺への競争」によって、独裁者の汚れたカネでも喜んで受け入れるようになったこの大国の矛盾をジャーナリストが告発する。目の前に札束を積まれれば、倫理や道徳が脇に置かれるのはどこも同じようだ。
「人間の本性は善なのか悪なのか」の問いは意味がない。進化生物学者が軽妙な筆致で、「ヒトは協力するように進化してきたけれど、それは利他的だからではない」と説明するのが『「協力」の生命全史』。協力(分業)はとてつもないパワーを発揮するが、わたしたちは合理的な功利主義者ではなく、社会にとってはよいことでも、自分が不利なときは協力を拒否するように進化したらしい。
『信頼の経済学』は行動経済学者が、法秩序や市場経済が無味乾燥なルールではなく、人間同士の信頼によって支えられていることを論じる。現代社会では専門家やメディアへの信頼が揺らぎ、事実ではなくアイデンティティ(党派性)によって、なにを信じるか決めるという危険な風潮が広がっている。
科学への信頼度が下がる一方で、テクノロジーは指数関数的に高度化している。遺伝学の分野では、ゲノム情報と学業成績などの表現型の相関関係をビッグデータで解析することで、生まれたときに、あるいは受精卵の段階で未来を(ある程度)予想できるブレークスルーが起きている。『能力はどのように遺伝するのか』では、日本における行動遺伝学の第一人者が、もはや遺伝を無視しては社会問題をなにひとつ解決できないと警鐘を鳴らす。
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source : 文藝春秋 2023年12月号