展望レストランで小5の私は真理を探究する科学者を志した
(1)この世界には真実があり、私たちはそれを知ることができる
私たち科学者は、世界の真理の探究を生業にしています。ですから研究者にとって何よりも大切なのは、この世には真実があると考え、それを知ろうとすることです。
昨今、SNS上に溢れるフェイク動画、フェイクニュースに表れているように、「何が本当で何が嘘かわからない」、「そもそも本当のことなど存在しないのではないか?」という相対主義的な風潮がありますが、真実は「ある」と仮定したうえでそれを知る努力をする方が生産的だと思います。
「知る」ことは人間の重要な能力の一つです。人も動物も自分の持つ能力を十全に発揮できたときに幸せを感じる。人間には生まれつき未知のことを知りたいと欲し、知る能力が備わっているのですから、それを自分の力で満たしていくことで幸せに近づけるはずです。
私が研究者を志したのは小学5年生のとき、両親と行った展望レストランでのことでした。岐阜で生まれ育った私は幼い頃、休みの日によく名古屋に連れて行ってもらいました。定番は中日ビルのレストランで昼食をとり、丸栄デパートで買い物するコース。12階建ての中日ビルの屋上には回転する展望レストランがありました。
食事をしながら、ゆっくりと回る外の景色を眺めているうちに、「ビルの高さ」と「ここから地平線までの距離」がわかれば、「地球の半径」が計算できることに気づきました。レストランから地平線を結ぶ直線と中日ビルの1階の喫茶店でできる三角形Aと、レストランから地平線を結ぶ直線と地球の中心でできる三角形Bは相似形だからです。そのことから、ビルの高さ×地球の半径=地平線までの距離の2乗であることが導き出せます。あとはこの式にビルの高さと地平線までの距離を入れれば、地球の半径が求められるはずです。
中日ビルの高さはどのくらいか。小学生の私がよく観ていたウルトラマンの身長は40メートル。彼は身長くらいの高さのビルの間で怪獣と戦います。中日ビルは周りのビルよりも少し高かったので、だいたい50メートルと見当をつけました。では、地平線までの距離は? そのとき、地平線あたりに実家の町を見つけた父が「20キロぐらいかな」とその数値を教えてくれました。計算して導き出した答えは、家に帰って百科事典で調べてみると、かなりいい線をいっていることがわかりました。
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source : 文藝春秋 2024年1月号