僕が楽観的ないくつかの理由
天の川が静かな夜空に広がり、星々が瞬きながら物語を紡いでいる。人間の手によって生み出された新たな星が、デジタルの闇から光り輝く未知の領域に生命を吹き込まれる。これは人類が手探りで進む未来への扉を開ける瞬間であり、それを導く舵手としてAIが立ちはだかっている。
私たち小説家は、これまでに無数の言葉で世界を描き、人間の心の複雑な模様を織り交ぜてきた。しかし、今やその創造の舞台には、人工知能と呼ばれる新たな存在が舞い降りてきている。デジタルの翼で空高く舞い上がり、私たちの想像を超えた未知の地平を探索するAI。その魔法のような存在感が、文学の舞台裏に微細な変化をもたらしているのを感じざるを得ない。
という文章を読んで、あなたはどう感じただろうか。以上の文章はChatGPT‒3.5に「雑誌『文藝春秋』から依頼された「AI論」の冒頭を小説家の立場から書いてください」というプロンプトで生成された文章である。真剣に読んだ方には申し訳ないが、このままでは他人に読ませる価値のある文章だとは思えない。「なんとなく文章のようなものが書かれているが、まったく頭に入ってこない」というのが正直な感想なのではないか。メタファーの使い方に統一性がなく、肯定的な文脈なのか否定的な文脈なのか、あるいはそのどちらでもないのかがわからない。難しい言葉もなく、紋切り型や陳腐な表現が多い割に、主語と述語と目的語の関係性がわかりづらいせいで主張が難解に感じてしまう……。
AIと小説家の未来
なお、初めに明らかにしておくが、僕は「生成AIが書く文章には他人に読ませる価値がない」と糾弾したいわけでもないし、今後、生成AIが冒頭の文章より遥かに質の高い文章を生成するようになるとも思っている。現状では作家の仕事を脅かすような文章を生成することができていないのは事実だが、文法的に誤っているわけではないし、『文藝春秋』という雑誌の読者層や、「小説家」という職業の特徴などを考慮して文章を作っているようにも見える。近い将来、ある程度の仕事をこなすことができるようになると思うし、現状でも適切なプロンプトがあれば他人に読ませる文章を書くことだって可能なのではないか。
とはいえ、いくつかの理由から、僕は「生成AIによって仕事が奪われてしまう」と悲観しているわけではない。むしろ、小説家が創作のために行なっているいくつかの手続きを支援してくれる存在として大きな期待を寄せている(実際に、早川書房の『SFマガジン』ではAIと共作した掌編を発表していたりもする)。
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source : 文藝春秋 2024年3月号