昨年、観光収入6,947億円を達成した県がどこかご存知ですか? 沖縄県です。現在7年連続で右肩上がりの成長を示しています。2018年の外国人観光客数は国全体で3,119万人です。都道府県別の招致ランキングは東京都、大阪府、北海道、京都府。そして今回、沖縄県が5位へランクインしました。沖縄県を訪れる客数999万9千人のうち、海外からのお客さんは300万人。とりわけ外国人観光客は今後、大きく伸びることが見込まれます。
2月に行われた辺野古基地移転に関する住民投票後、私は基地反対への参加ではなく、経済のフィールドワークの一環として沖縄を訪れました。そこで先述の数字を知らされて驚いたわけです。「この成功の秘密はどこにあるのかな?」と地元のジャーナリストに訊くと、亡くなった翁長雄志前知事やオール沖縄会議にあると教えられました。
2011年に策定された沖縄振興のための「沖縄21世紀ビジョン」というものがあります。主な内容は「アジア協調」「県民のセーフティネットの充実」「県の環境と文化を活かした経済的自立」の3本柱です。これらの基礎にあるのはアジア交易を主眼においた琉球王国の伝統です。この策定に翁長さんやその後、オール沖縄に参加する人々も関わったのです。
自治体にありがちな絵に描いた餅ではなく、沖縄は計画を実行に移しました。まずは人とモノの流通改革です。那覇空港の滑走路拡張と韓国、台湾、中国など国際線発着を充実。同時に那覇港も海外客船を積極的に招致。さらに台湾や中国、香港、韓国へ財団法人の沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB)と県が協力して現地で観光客の呼び込みを強化しました。
この動きの中心を担うのが16年に県庁に作られたアジア経済戦略課です。この課と沖縄県産業振興公社、地元大手企業の金秀グループなどが結びついて、県経済の自立を後押ししている。翁長県政を支えた経済学者の富川盛武、県職員だった謝花喜一郎両副知事の手腕もある。ハワイに追いつけ、追い越せという勢いは、現地にいて確実に感じました。
冒頭で述べたように沖縄の観光事業は急成長を遂げていて、賃金も上昇しています。リゾートの清掃アルバイト代で月23万円稼げるなんて国内でも希な景気です。
ただ今後の課題もあります。少子高齢化対策を早めに進め、未整備の水産物の加工施設を持つことが望まれます。また沖縄電力がコスト高の火力発電に頼らず、再生可能エネルギーへ転換すること。笑い話のようですが、電力不足の沖縄に原発を作ろうという話があった際、真っ先に反対したのは米軍だったそうです。観光業で先を行くハワイの州知事、デービッド・イゲさんは沖縄にルーツのある人で、電力自立をすでに達成しているハワイとこの方面で協力する動きもあるので、今後が楽しみです。
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source : 文藝春秋 2019年9月号