私が大相撲を観るようになったのは、幼稚園児の頃にハワイ出身の横綱・武蔵丸(現武蔵川親方)の大きな身体から繰り出される技に魅せられてから。相手力士の体が真っ逆さまにならんばかりの豪快な投げ技に、テレビ画面越しながら夢中になりました。
以来、顔を洗う時には「水戸泉!」と叫びながら顔をパチパチ叩くなど好角家街道を順調に歩んできた私ですが、一昨年から、念願叶って佐藤祥子さんの連載「大相撲新風録」を担当させていただくことになりました。
今月号では佐藤さんに、新大関に昇進した佐渡ヶ嶽部屋の琴ノ若関(26)と、師匠であり父親でもある佐渡ヶ嶽親方(55、元関脇・琴ノ若)の「師弟対談 めざせ! 横綱琴櫻」を取材・構成していただいています。
2月某日、佐藤さんと一緒に千葉県松戸市にある佐渡ヶ嶽部屋に伺うと、佐渡ヶ嶽親方と琴ノ若関が出迎えて下さいました。
この日伺ったお話で一番印象的だったのが、琴ノ若関が自分の昇進だけでなく部屋の弟弟子たちの成長を考え、自ら若手力士の指導に力を入れていたことです。
「自分が上がるだけじゃダメで、下を引っ張り上げないと。そういうこともやってこその力士だと思います。それをまた自分の経験にしないといけない」
弟弟子への指導について、こう語る琴ノ若関。実は佐渡ヶ嶽部屋では、2月号のグラビア特集「相撲部屋のちゃんこ」で稽古やちゃんこ場の様子を撮影させていただいたのですが、この時も、琴ノ若関が弟弟子にマンツーマンで摺り足を教える姿が非常に印象に残っていました。
相撲部屋の稽古は、どちらかというと「先輩の背中に学ぶ」世界。関取や番付上位の力士がここまで丁寧に指導する姿を私は見たことがありませんでした。
なぜ貴重な時間を割いて指導に当たるのか――ずっと疑問に思っていましたが、今回のインタビューでは、琴ノ若関の真意を聞くことができました。
「もったいないじゃないですか。上がれる力があるのに、くすぶっていたら。キツイのはわかるんですよ、自分も若手の頃に上の人に教育熱心にやっていただいたので。でも自分もテッペンを目指して、師匠と一緒に部屋の力士たちも強くしたい。あれ(稽古場にある番付順に並んだ木の名札)を関取でいっぱいにしたいんですよ」
ひと言ひと言に大関としての覚悟や責任感を感じ、一相撲ファンとして思わず胸が熱くなってしまいました(ちなみにこの頼もしい言葉を聞いて、琴ノ若関がまだ幼い頃から相撲取材を続けている佐藤さんは涙を流されていました)。
今月号では、内館牧子さんの連載「ムーンサルトは寝て待て」でも琴ノ若関や先代佐渡ヶ嶽親方の知られざるエピソードが綴られています。
現在大阪では、大相撲の春場所が開催中。琴ノ若関の活躍に大注目です!
(編集部・天羽)
source : 文藝春秋 電子版オリジナル