映画は、これまで若い芸術でした。ほかの芸術、音楽やダンスや絵は、人類の始まりからほどなく生まれ、文学も数千年前から存在しています。それに比べれば、19世紀末に発明された映画は、続く20世紀を通じて、ずっと若い芸術と見なされ、時代の最先端を記録してきました。
しかし、最近続けて見た2本の重要な映画のことを考えると、映画というメディアもついに老いの領域に入ったのではないかと思います。そして、人間が老いを前にして、自分とは何だったのかと考えざるをえないように、映画も、映画とはいったい何だったのかと根本的な反省を余儀なくされている気がするのです。
その一本目の映画は、ジャン゠リュック・ゴダール監督の最後の作品『遺言 奇妙な戦争』です。
ゴダールは、2022年に彼の暮らすスイスでは合法とされる自殺幇助を受けて自死を遂げました。2月に公開された『遺言 奇妙な戦争』はその死の数か月前に完成された短編映画で、これから撮られるべき映画の概要をイメージと音声と言葉で記した、いわば撮影台本のような作品です。フランス語の原題では、「永遠に存在することのない『奇妙な戦争』という映画の予告編」と名づけられています。
ゴダールが最後に完成した長編映画『イメージの本』は、いつものように、様々なイメージの断片と無数の言葉の引用で作られていましたが、全体に世界の未来へのゴダールの絶望が満ちているような印象でした。ゴダールが自死を遂げたことも、この絶望と無関係ではないでしょう。
しかし、ゴダールは自殺に向かいながら、戦争をやめられない人類に対して、それでも世界を救う希望を女性に託す『奇妙な戦争』という映画を構想していたのです。自分の自由にならない肉体の老いを自分の終わりとして認めながらも、映画には世界を生き延びさせるための希望を託し、未完の映画の予告編を撮ったのです。ここにゴダールの痛切な最後のメッセージを見る思いがします。
もう一本の映画は、ビクトル・エリセの『瞳をとじて』です。エリセは映画史上最も可憐な少女アナ・トレントが登場することで忘れがたい『ミツバチのささやき』の監督で、新作はなんと31年ぶりの長編になります。
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