昨年末、40年間奉職した外務省を去った。家族、知人や友人からの心温まる労(ねぎら)いの言葉は身に染みた。だが、達成感はなかった。
「もはや、お前の居場所はない」と人事権者の次官から面と向かって告げられたことも影響したとは思う。でも、そんな個人的な次元にとどまらない大きなものがあると感じていた。
その後、法曹界のレジェンドに拾われて、六本木の大手法律事務所に移った。小さな井戸から飛び出した蛙のように、全てが新しい経験の毎日だ。オフィス環境のみならず、スタッフの士気、能力において今の霞が関とは異なる世界が開けていた。
退官後、霞が関からは足がすっかり遠のいたが、通り過ぎる車窓から見る古巣は、限りなく貧相で疲れ果てて見えてしまう。一体いつからこうなってしまったのか?
振り返ってみると、民主党政権誕生がひとつの転機であったと思う。官僚への不信感を前面に出す政治家。反発する官僚とすり寄った官僚。
そして、自民党政権への揺り戻し。民主党にすり寄った官僚はパージされ、新たに自民党に大きく尻尾を振った人間が重用され、栄達の道を歩んだ。さらに、未曾有の長期政権に草木もなびいた。
離職者が増える霞が関の現状を嘆く声が絶えない。深夜どころか翌朝にまで及ぶ国会答弁作成に原因が求められる。しかし、何度も徹夜を繰り返してきた私から言わせれば、そんな次元の話ではない。もっと大きな根源的な問題がある。吏道の衰退なのだ。
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