白いカーネーション

ムーンサルトは寝て待て 第10回

内館 牧子 脚本家
エンタメ 読書 教育

 私が小学生の時は、5月の「母の日」が近くなると、必ず母親にちなむ絵を描いたり、カーネーションを画用紙で作ったりの授業があった。たぶん「図画工作」の時間だったと思う。

 当時、昭和30年頃の「母の日」には、当たり前の決まりごとがあった。母親がいる児童は赤いカーネーション、いない児童は白いカーネーションなのだ。

 今にして思うと、幼い子供に何というむごい差別をしていたものかと思う。だが「当たり前」のことであり、教師も異を唱えなかったのではないか。

 私たち児童も、白いカーネーションの造花を作っている子を見ると、

「あ、そうか。〇〇ちゃんは白か」

 と、これも「当たり前」に言っていた。長い茎のカーネーションを作った年は、教師が、

「母の日には『お母さん、ありがとう』と言って、渡しましょう」

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source : 文藝春秋 2024年5月号

genre : エンタメ 読書 教育