「政治とカネ」すなわち金権政治は自民党の宿痾である。ここ三、四十年ほどに限っても、一九八八年のリクルート事件から今回の政治資金パーティーでの裏金隠しまで、次々に不祥事が出て世間を騒がせた。そしてその度に改革がなされた。例えばリクルート事件では、自民党は「政治改革大綱」を発表し、党三役や全閣僚の派閥離脱や派閥パーティーの自粛をうたった。無論きれいさっぱり忘れ去られた。
今回、政府は裏金隠し対策として派閥解消、不正行為への罰則強化、政治資金の透明化などを考えているようだ。どれも正鵠を射ていない。金権政治の温床は、団体や企業の献金そのものにあるからである。一九九三年のゼネコン汚職では、ゼネコンから中央政界や地方政界に多額の賄賂が贈られ、多くの逮捕者が出た。これを受け、日本の大企業のほとんどが加盟する経団連の平岩外四会長は、それまで経団連が行なってきた各企業への献金割り当て、いわゆる「斡旋」を廃止した。毎年百億円以上となっていた献金はほとんど自民党へのものだったが、それを止めるという大英断だった。
ところが二〇〇四年、小泉政権下で、首相と気心の通じた奥田碩経団連会長が献金を再開した。経団連が各党の政策を評価し、それに応じて献金額を決めるという方式である。大企業にとって最も好都合な政策を打出す政党にカネを出してやるというのだ。「民主主義を維持するにはコストがかかる。企業がそれを援助するのは社会貢献だ。カネを出すが口も出す」とも言った。よくぞこれほど傲慢なことを公言できたものである。民主主義下での政治にコストがかかるのは仕方ないからこそ、税金から政党交付金として毎年三百二十億円近くが、議員数に応じて各政党に配られているのだ。団体や企業による献金とは、利益誘導に他ならない。
奥田会長の言明は政府に大歓迎され、現在の経団連にもそのまま引き継がれている。かくも恥ずべき言明が二十年も大手を振って歩いてきたというのは、自民党と経団連ばかりでなく、メディアそして国民までがアメリカ型金銭至上主義に染まったということである。経団連は教育にも強い口出しをした。その影響下で英語が小学校三年から必修となりIT教育までが導入された。初等教育は人間を作り日本人を作る場であり、そのためには何より読み書きそろばん、すなわち国語と算数だ。物語や童話や詩などをできるだけ多く読み、感動の涙とともに情緒や真善美を学ぶ場である。経団連は英語やITを学ばせ有能な企業戦士を育てたいのだろうが頓珍漢だ。
法人税は奥田会長時代の三〇%から現在の二三・二%まで少しずつ下がり続け、逆に庶民にとって切実な消費税は当時の五%から八%、そして一〇%へと上がり続けた。輸出大企業にとって消費税は痛くも痒くもない。例えばある大企業の輸出売上高が十兆円あっても、輸出奨励のためそれに消費税は一切払わなくてよいという特典がある。さらに製品を作るための原料仕入れに八兆円かかったとすると、そのために支払った消費税八千億円は国から還付してもらえるという特典まである。だから輸出大企業のトップ二十社への消費税還付金は二〇二一年度、何と合計一兆七千億円にもなった。下請けの中小企業にはそんな特典もなく、円安による物価高騰もあり、「消費税が払えない」と悲鳴を上げている。経団連が毎年のように法人税下げと消費税上げを唱えている理由、そしてその通りになった理由は容易に想像がつく。「カネを出すが口も出す」とは賄賂であり買収に他ならない。政治献金とは、献金のできる強者を喜ばせ、できない弱者を泣かす不公正なものである。
経団連などは海外でも団体や企業の献金はされていると言うが、フランスやカナダでは禁止されているから、アメリカを指しているのだろう。たしかにアメリカではロビー活動が盛んで、ほとんどの場合、政治献金が伴っている。強力なロビー活動として、企業としてはGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)、団体としてはAIPAC(米国イスラエル公共問題委員会)やNRA(全米ライフル協会)がよく知られている。GAFAが急成長をしたのは、これら四社が毎年数十億円という政治献金により自社に有利な状況を作ってきたからである。また、米国の人口の二%に過ぎないユダヤ系が上院議員の一〇%に上り、閣僚や高官にも多用されているのは、AIPACの豊富な資金力による強力な選挙活動によるものだ。イスラエルが米国の最大の対外援助対象国となっている理由も同様だ。イスラエルによるガザへの容赦ない非人道的攻撃に対し、欧州諸国からは厳しい批判が出ているのに、米政府からほとんど出ないのは、そんなことを口にしたら次の選挙で勝てないからである。アメリカでは年間約六百件もの銃乱射事件が起きている。我々の眼には「世も末」の状態にありながら一向に銃規制が進まないのは資金力豊かなNRAが、国や州で政治家に対し猛烈な活動をするからである。
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