ピーター・ゴドフリー゠スミス著 塩﨑香織訳「メタゾアの心身問題 動物の生活と心の誕生」

角幡 唯介 ノンフィクション作家・探検家
エンタメ サイエンス 読書

動物に心はあるのか?

 犬と生活しているとその行動に驚かされることが多い。そのふるまいはどこか政治的だ。飼い主である私やボス犬の顔色をうかがって次の行動を決めており、明らかに複雑な意識があるようにしか思えない。でも彼らを見る私の視点には大なり小なり擬人化がほどこされており、その意味で私の目により毒されている。本当に彼らの行動は、私が感じるように豊かなのだろうか?

 動物の意識はどうなっているのだろう。これは人間以外の生き物と暮らすあらゆる人が感じる疑問ではなかろうか。彼らが言葉で説明してくれたらわかりやすいのだが、残念ながらそれは期待できそうもない。だからいまだにデカルト以来の動物機械論が根強くはびこり、人間以外の動物には自意識がなく、その行動の裏には単純なアルゴリズムしかないと考える人が多いのである。

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source : 文藝春秋 2024年8月号

genre : エンタメ サイエンス 読書