その日、編集部はひときわ盛り上がりを見せていました。
日頃はそれぞれが取材に出てガランとしがちな編集部に、月に一度もっとも人が集まる日――。それが月末の校了日です。
校了とは、すべての原稿や写真・データ素材などを完全なかたちで揃え、印刷所に渡すこと。
取材をして原稿を書き、デスクに見てもらって修正し……。ゲラが出れば校閲の方にチェックしてもらい、改めて資料や取材メモにあたって赤字を入れ……と1か月間かけて作ってきた記事も、あとは6人のデスク全員と編集長のチェックを残すのみ。そう考えると、寝不足でフラフラなことも相まってこの日はおかしなテンションになるのも無理はありません。校了日だけ頼むお弁当を食べながら最近見た夢の話をしたり、校閲チェックを待ちながら、取材するうちに突如将棋に凝り始めた同僚に半ば無理やり好きな戦法を解説されたり……みな思い思いに過ごします。
この日の話題は「昭和を感じる懐かしいもの」に。50代のデスクたちは(デスクM「いやいや、私はまだギリ40代!」)、「そういえば最近、電話ボックスって見かけなくない?」「昔は新幹線の席でタバコが吸えたよな~」「広告がやたらあちこちにあった『新堀ギター』って何だったんだろう!?」と何やら楽しそう。
なにしろ今号の目玉は「昭和100周年特集」。来年、昭和改元から100年の節目を迎えるにあたり、昭和にまつわるさまざまな記事を集めた大特集が組まれました。
その中でもデスクたちの思い出話に火をつけたのが、「あゝ、昭和の文化が懐かしい」と題した座談会です。編集部からの依頼に対し、「昭和のことなら任せて!」とアツいお返事をくださった作家の北村薫さん(昭和24年生まれ)、女優の宮崎美子さん(昭和33年生)、そして歌人の穂村弘さん(昭和37年生)による座談会には、「貸本屋」に「ボットン便所」、「紙芝居屋」などお三方の幼少期の思い出とともに昔懐かしい“昭和アイテム”が盛りだくさん。振り返れば、5月に行われたこの座談会から“昭和熱”はメラメラと燃えていました。
当日、北村さんが昭和5年の「少年倶楽部」付録の学習カルタを手に現れると、あれよという間にみなでタイムスリップ。坊主刈りの少年が描かれた絵札を見ながら幼少期の髪型トークに花を咲かせたり(なんと宮崎さんにも「ワカメちゃんヘア」時代があったそう)、トイレにまつわる様々なエピソードが飛び出したりと(穂村さんの小さな頃の将来の夢はバキュームカーの運転手さん。掃除機の蛇腹をホースに見立て、汲み取りの練習をしたそうです)、いつもの取材や対談とはまた雰囲気の異なる空間が広がりました。
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