9月号のトップ記事は、7月まで財務官を務めた神田眞人氏の「日本はまだ闘える」です。
霞が関の最高ポストのひとつである財務官の仕事のひとつは「為替介入の指揮官」。為替相場が大きく動くたびに「何もコメントする立場でない」「私から申し上げることはない」とコメントする姿が報じられましたから、「あ、あの人か」と気づかれる方も多いでしょう。
財務官は、この世にこれほど忙しい人はいないのではないかと思われるほど、超多忙な職務です。世界各国の財務・金融当局と日常的にやり取りするため、毎週のように海外出張があり、この記事の準備中も「いまモルドバにいます」「来週はブラジルです」と編集部に連絡がありました。オンライン会議が深夜に及ぶことも日常茶飯事のようです。「時差ボケは大丈夫ですか」と聞くと、「毎週のように西に行ったり東に行ったりなので、どこがホームだかカラダもわからなくなっていると思います」と話していました。
その超多忙な神田さんが、円安が急速に進みつつあった今年3月、省内に懇談会「国際収支から見た日本経済の課題と処方箋」を立ち上げ、民間の有識者20人を集めて議論を始めました。その成果をまとめ直したものが「日本はまだ闘える」です。
この原稿のいちばんの価値がどこにあるかと言えば、「円」という通貨を守るため最前線で戦い続けた当事者の胸に去来した問題意識がすみずみまで反映されていることだと私は考えています。
一連の介入の中で、おそらく読者の皆さんの記憶に鮮やかなのはGW中の介入でしょう。このとき3回おこなわれた介入で投じられた総額は約10兆円。円は1ドル160円台から153円台まで回復しました。円安に賭けていた投機筋にとっては強烈な一撃となり、介入の威力を見せつけました。
介入のタイミングと規模は、財務官の判断でおこなわれます。事前に財務大臣に方向性は説明しておくようですが、一種の投資であり、それぞれが一発勝負でもあるので、財務官の判断力と胆力にゆだねられているのです。
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