2025年は「戦後」を問い直す上で恰好の特異年だ。第二次世界大戦の終結から80年にあたり、政権を長期間担い続けた自民党も結党70年を迎える。節目に臨んで、歴史の検証と共に未解決の課題を巡る論議が熱を帯びよう。
憲法改正もしかり。平和と民主主義を追求する現憲法への転換は日本の敗戦を起点に生じたものだし、自民党も改憲を党是としてきた。しかも世界は新冷戦時代に突入し、岸田文雄前首相は防衛費の大幅増に踏み切った。自衛隊の存在の明記をはじめ改憲に一定の答えを出す時が迫りくるように思える。
だが、2024年9月にあった自民党総裁選を見ても、改憲への視界は開けてこない。解雇規定見直しなど政策論争を牽引した小泉進次郎氏も改憲では「否決されるリスクがあっても国民投票を実現したい」と言っただけだし、新総裁・首相に就いた石破茂氏さえ持論を前面に出さず「党の結論を重視」する姿勢だ。まるで今、とば口に立ったかのような「総論賛成」の域にとどまり、実現への具体的な手順や知恵を示す「各論」を欠く。
なぜか。故安倍晋三氏の呻吟に答えがあると思う。祖父・岸信介元首相の夢を継ぎ、衆参を壟断(ろうだん)する一強態勢を手にしつつも、改憲の国会発議に届かない。安倍氏が直面した壁を検証してみよう。
2012年11月。民主党の野田佳彦首相が衆院解散を宣言し、野党・自民党総裁の安倍氏の首相返り咲きは確実と思えた。筆者は、来る政権で進める政策の優先順位を安倍氏に質(ただ)した。
「改憲は3番目です」。明快な答えが返ってきた。「危機対応とデフレ脱却の確かさを国民に実感してもらった上で最後に挑戦する課題と思う」と続けた。
安倍氏は1度目の政権時に教育基本法改正など保守的諸改革を一気に進めようとし、世論に離反されたことを悔いていた。岸首相が安保改定を巡り反対運動を惹起させ、改憲の機運を萎(しぼ)ませたことも脳裏にあった。改憲を「3番目」とした慎重姿勢は、自身と祖父の蹉跌(さてつ)を教訓としたものだった。
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