「ネオ55年体制」のゆくえ 政権交代は実現できるか

境家 史郎 東京大学教授

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 筆者は、今日の日本政治の状況を「ネオ55年体制」と呼んでいる。近年では、(1)保守政党(すなわち自由民主党)が支持率や議席率の面で圧倒的に強く、(2)与野党第一党(すなわち自民党と立憲民主党)がイデオロギー的に分極的な立場を取っている。この2点が、往年の55年体制期(1955~93年)における自民党と日本社会党の対立の構図に似ているというわけである。

(1)については詳しく説明するまでもないだろう。第二次安倍晋三政権が成立した2012年の衆院選以降、22年の参院選に至るまで、自民党は国政選挙で連戦連勝を続けてきた。こうした緊張感のない政治が続く中で、政権与党側に緩みや驕(おご)りが表れ、ひいては「政治とカネ」をめぐる問題の続出にもつながったと見るべきだろう。

自由民主党本部 ©GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

 他方、(2)の「イデオロギー的に分極的」というのは、分かりやすく言えば、安全保障政策や憲法改正問題(特に9条をめぐる)における立ち位置が大きく離れていることを指す。かつての社会党は護憲と「非武装中立」、すなわち自衛隊・日米安保条約の廃棄論を唱えており、憲法9条改正を党是とする自民党とまったく対照的な主張をしていた。

 今日の立憲民主党は、もちろん非武装中立論を唱えているわけではない。だが、自民党の安保政策や憲法政策での立ち位置が55年体制期より右派的、タカ派的になっていることもあって、与野党第一党のこの面での差異は依然として大きい。分かりやすいのは、2014~15年に争点となった、集団的自衛権行使をめぐる対立だろう。このとき安倍首相率いる自民党政権は、従来の政府の憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を解禁し、それに付随する新安保法制(平和安全法制)を成立させた。当時の野党である民主党や日本共産党は、安保法制は違憲であるとして、法案審議の際に大いに抵抗した。その後、17年に民進党(旧民主党)が解体し、立憲民主党の結成に至るが、この新党も安保法制の一部について違憲とする立場を崩さず、改憲にも消極的であり続けてきた。

 重要なのは、与野党第一党が分極的立場を取っているという上記(2)の特徴が、自民党が圧倒的に強いという(1)の特徴の持続と大いに関係している点である。というのも、立憲民主党が共産党とともにリベラル、あるいは左派的な立場に固執しているために、野党陣営は全体としてまとまれず、ゆえに自民党が選挙で漁夫の利を得る構造になっているからである。国民民主党や日本維新の会は、安保政策面では政権与党に近い「現実主義的」路線を取っており、憲法改正にもきわめて積極的な姿勢を見せている。というより、これら2党と立憲民主党は、こうした争点での立ち位置が違うために別々の政党として存在していると見た方がよい。

「改革推進」で政権奪取

 特に立憲民主党と国民民主党は、もともとは旧民主党から分かれた同根の政党で、合流を含めた協力が模索されてきたのは当然であるが、これまで連携は思うように進んでいない。2020年には両党の合併(すなわち実質的に旧民主党の復活)が模索されたが、国民民主党の玉木雄一郎代表らは、憲法問題などでの立場の違いを理由として合流を拒んだ経緯がある。第二次安倍政権が成立して以来、安保政策や憲法をめぐる争点の重要性が高まった(政権によって意図的に争点化された)ため、この面で元来幅の大きい野党陣営は分断を余儀なくされてきたのである。

 思い返せば、旧民主党は1996年の結党以来、こうした幅の広い議員たちを(バラバラだと揶揄されつつも)糾合していき、自民党と張り合える2大政党の一角として成長し、2009年の政権交代を実現したのであった。では、なぜ旧民主党ではイデオロギー的立場の差異が党内で決定的な問題にならなかったのかといえば、90年代から2000年代まで、「体制改革」という、憲法・防衛政策よりも重要な争点が一時的に政界で浮上していたからである。リクルート事件発覚を契機として、90年頃から日本政治では統治制度や経済システムの改革が時代の争点となったが、そうした風潮の下で、本来呉越同舟であるはずの非自民勢力は「改革推進」という一点で大同団結し、ついに政権を奪ったのであった。

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source : ノンフィクション出版 2025年の論点

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