田舎で本づくり30年

向原 祥隆 図書出版南方新社社長
ビジネス 働き方 読書

 東京から鹿児島にUターンして南方新社という出版社を創業した。あれから30年、650点の本を世に送り出してきた。

 出版不況と言われ、この20年で半分の書店が消え、市場も半分に縮小したと言われるが、まだ南方新社は潰れる気配もない。

 田舎の小学校や診療所が、そこに子供や年寄りがいる限りなくならないのと同じようなものだ。もちろん売り上げは半分に減ったが、どうということはない。合鴨を放って米を作り、会社で鶏を飼って卵をとり、ニホンミツバチの群れと遊びながら、のんびり仕事をしている。

 もう嫌だ! そう思って東京から逃げ出した。何が嫌だったかというと、片道1時間半の通勤である。帰りはまだしも、行きはすし詰め。田舎では豚でもこんな扱いはされない。

 13年勤めた会社を、やーめた、と帰ってきたが、小学生の子供を3人抱えている。さて、どうする?

 農業で身を立てることも考えた。父の畑でサツマイモの収穫を手伝った。丸一日汗みどろになって掘ったイモは約40キロ。これいくら、と聞くと4000円だという。収穫で4000円なら植え付けから草取りまで勘定に入れたら日給1000円にもならない。時給じゃなくて日給ですよ。イモの相場が上がったとは聞かないから、今でもそんなもんだと思う。これじゃ子供の給食費も払えない。さっさと諦め、少しは経験のある出版社を立ち上げることにした。

 デビュー作は『滅びゆく鹿児島』。

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source : 文藝春秋 2025年2月号

genre : ビジネス 働き方 読書