中学3年の頃から私は、星新一を真似てショートショートを書くようになった。ショートショートの命は「アイデア」だから、私は「創造性の開発」という類の本を何冊も読み、異質なものごとを組み合わせて新たなアイデアを得る方法を知った。
私は中学3年から高校3年にかけて数十編のショートショートを作った。その中でもっとも出来が良かったのは、高校2年の1月に書いた『雨やどり』で、これは私が40年ほどの歳月をかけて執筆し、2024年に上梓した『物語要素事典』(国書刊行会)の「あとがき」に、全文を載せた。
この時は、次のようにしてアイデアを得た。ある雨の午後、私はバスに乗っていた。雨足は強く、大雨注意報が出そうだった。窓外を見ながら、私は「いつもやっているように、異質な言葉を組み合わせて、ショートショートのアイデアを得よう」と思った。
「雨がひどくなれば、大雨警報が出るかもしれない。では、『小雨警報』というものがあり得るだろうか」と私は考えた。
「人間の体が紙で出来ているならば、小雨でも警報が出るだろうな」と思い、紙人間が傘を持たずに、雨の中を逃げ惑うイメージが浮かんだ。
次の瞬間、私の頭の中で何者かが動き、あるいは何事かが起こって、「人間の体を材料にして傘を作る」というショートショート『雨やどり』が、たちまち出来上がった。
これは、異質な言葉の組み合わせが非常にうまく行った例である。こういうことはまれで、普段はなかなか良いアイデアが出ない。高校を卒業する頃には、私はショートショート作家になる夢を諦め、創作ではなく研究という方向から、物語に取り組もうと思うようになっていた。そして試行錯誤の末に、『物語要素事典』を作り始めた。古今東西の神話・伝承・小説などから、物語の核となる「仇討ち」「時間旅行」などの要素を抽出し、あらすじを記述していったのである。
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