20億年前の微生物から「生命の起源」に迫る

岩石内を可視化する技術開発に成功

鈴木 庸平 東京大学大学院理学部准教授
ビジネス テクノロジー サイエンス

 生物界にとって天と地がひっくり返る発見かもしれない――。私たち東京大学の研究チームは、20億年前の地層から、生きているとみられる微生物を採集することに成功したのだ。この微生物が当時からほとんど進化していなかったら、「生命の起源」の謎を解く糸口になる可能性がある。

 どのように生命が誕生したのか? 身近であり壮大でもある「生命の起源」というテーマは、主に3つのアプローチによって研究されている。

 1つ目は地球の古い時代の地層に残る生命の痕跡を探すというアプローチで、40億年前の地層中に「すす」となった姿で見つかっている。しかし、20億年より前の時代の地層には、生き物の体を構成した物質は破壊されて残っておらず、この方法では20億年前の生き物を調べることは非常に困難である。

画像はイメージです ©cake_and_steak/イメージマート

 そして、2つ目は「化学進化」からのアプローチ。「化学進化」とは、地球上で簡単な化学物質から次第にアミノ酸やタンパク質などの複雑な有機物が形成され、生命が出現するまでの過程を指す。有名な研究として知られているのが「ミラーの実験」だ。原始の地球を想定してフラスコの中で雷を模擬した放電実験により、生命の源となるアミノ酸を合成した。

 また、小惑星リュウグウから砂を持ち帰った探査機「はやぶさ2」は宇宙空間における「化学進化」の研究に貢献している。「ミラーの実験」も「はやぶさ2」も共通するのは、生き物がいないところで研究している点である。だが、同様の研究を地球の実験室外で行ったら、現在の生き物からの妨害を受けることが容易に予想される。

 3つ目は「生物進化」からのアプローチ。現存する生き物から進化を遡って、最初の生命にたどりつこうというアプローチだ。地球上の全ての生き物のDNA配列から進化の系統樹を作成して、家系図のように生物間の近縁さを調べるもので、全生物に共通する祖先に近縁な生き物を推定していく。10年前までは全生命の系統樹が1つの遺伝子の情報からつくられていたが、現在では100を超える遺伝子の情報から作成することが可能になった。これは生き物が持つDNA配列の全てを読み解くゲノム解読が容易になった恩恵なのだが、従来の1つの遺伝子に基づく生命進化のシナリオの見直しを根底から迫られている。

 このような背景の下、地上の生き物から隔離された場所として注目されているのが、深海や地下深部だ。生き物が住めない場所では「化学進化」、生き物が住める場所では「生物進化」を明らかにするための研究が盛んに進められてきた。

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source : ノンフィクション出版 2025年の論点

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