ひのえうま(丙午)は暦の迷信として最もよく知られている。1966(昭和41)年には、史上最大の「実害」が生じた。同年生まれの赤ちゃんの数が、前年より50万人近く少なくなったのだ。日本の人口ピラミッドには今も「切り欠き」が残る。
そのひのえうま年が、2026(令和8)年に迫っている。SNS上では、ひのえうま迷信を、人ならぬ力による避けがたい厄難だと危惧する説が飛び交う。

けれども、歴史をひもとくと、この迷信現象の社会学的なカラクリが暴かれる。
江戸中期、この年の生まれの女性は気性が荒く、嫁しては夫を食い殺すなどという俗言が流布しはじめた。全く無根拠なフェイクニュースだったのだが、この年の出生は忌まれ、長じては嫁入りが避けられ、決め付けを受けた女性たちは誹りや不縁に泣いた。
出生忌避の子流しは、しばしば妊婦の誤死を伴い、イエにとって余剰な女児が間引かれた。女児の出生年を偽る「祭り替え」も記録に残る。この生年の性比をみると、極端に女性が少ない。
ここからわかるのは、ひのえうま厄難の背後に、男尊女卑の家父長制イデオロギーがあったということだ。この迷信は、60年に1度、女性のみが該当する120分の1の「見せしめ」を作り、彼女たちをさいなむことで、旧来の規範の力を示すものだったのだ。
ところが、そうした因習性からすると全く意外なことに、婚姻忌避と出生回避が最大化したのは、大衆メディアが発達した昭和期のことだ。
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