反日デモの横で「フリーハグ」をした日本人

旬選ジャーナル

慎 武宏 ノンフィクションライター
エンタメ 読書

【一押しNEWS】反日デモの横で「フリーハグ」をした日本人/9月12日、現代ビジネス(筆者=桑原功一)

 史上最悪と言われる日韓関係のせいか、韓国の話題に事欠かない今日この頃だ。朝日新聞の「過熱する韓国報道、底流に何が」(9月6日付)という記事によると、ワイドショーで日韓対立を扱う時間数は6月までは1週間で2時間程度だったが、8月下旬になると約14時間に増えたという。巨大パネルを使って深掘りする日本の情報番組に、ビジネスのために日本にやってきた韓国の友人も「ここは韓国か。いや、韓国のテレビでもここまで毎日特集しない」と閉口していたほどだ。

 そんな中で目に飛び込んできたのが9月11日の『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日)で紹介された、とある日本人青年の行動だ。愛と平和を訴えるべく世界各地でフリーハグを展開してきた桑原功一さんが、ソウルで行われていた安倍政権糾弾デモのすぐ横で単身でのフリーハグを実施したのだが、その映像を見て驚いた。

 というのも、桑原さんがフリーハグを行った光化門(クアンフアムン)広場は朴槿恵前大統領を権力の座から引きずり下ろしたことで有名な“ロウソク集会”の聖地。普段は市民の憩いの場だが、週末になると今でも革新・左派系の市民集会や保守・右派系の「反文在寅大統領デモ」が入れ替わりで行われているため、“移動警察”と呼ばれる警察官や機動隊車両の数も多い。そのため左派・右派を問わず、デモがあると筆者もあまり近寄りたくない場所でもある。

 しかし、桑原さんはその集会の真横で、しかも目隠しをしたままで韓国人の反応を待ち続けた。両脇には「日本にも韓国にも、日韓の友好を望む市民がいます。私は皆さんを信じています。皆さんも私を信じてくれるならハグしてください!」と韓国語で書いたメッセージボード。「現代ビジネス」に寄せられた桑原さんの手記によると、「“信じています”という言葉に最大限の深みを与えるために、アイマスクをした」そうだが、その場のノリやポーズに頼らず韓国人を信じた勇気と覚悟に頭が下がった。彼の元に歩み寄りハグする韓国人が次々と出てくる映像を見ているだけで、心の震えが止まらなかった。

 特筆すべきはこのニュースを、朝鮮日報、中央日報、東亜日報といった韓国メディアも多く取り上げていたことだ。その数、実に16媒体。公共放送KBSなどは「日本人だから憎いとか、そんなことはない。正しいことは(両国の)市民同士が一緒にしなければならない」という桑原さんとハグした集会参加者の声も紹介していた。政治対立が互いの国民感情にも影を落とし始めている現状を憂う声が、韓国にも間違いなくあるということなのだろう。

 確かに韓国では依然として「NO JAPAN」が幅を利かせている。韓国プロ野球界はその空気感を無視できず毎年恒例だった日本での秋季キャンプを取りやめ、映画界では8月公開予定だった映画『ドラえもん』が今でも無期限公開延期となっているが、それでも私の周りでは状況を打開しようという動きがある。

 旧知の間柄である大韓体育会の幹部は日韓スポーツ交流を中断してはならないと奔走しているし、韓国のとあるエンタメ関係者は日韓コンテンツ・フォーラムを企画している。国同士がいがみ合っていても、人と人との交わりは断ってはいけない。そう考え動き出している人々が増えているのだ。

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source : 文藝春秋 2019年11月号

genre : エンタメ 読書