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連載昭和の35大事件

まるで戦争「日本刀44本を押収」 殺人が起きても止まらない”野田醤油ストライキ”のすべて

争議団幹部が重役と刺し違えて一人一殺の案まで

2019/09/08

source : 文藝春秋 増刊号 昭和の35大事件

genre : ニュース, 社会, 歴史, 経済, メディア, 働き方, 企業

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「大きくなって何になりたいですか」「正しい立派な労働者になりたい」

 会社は行徳工場の社宅が争議団本部に利用されるや、人を派して粉微塵に叩きこわした。争議団の演説会に壮士を送って暴れさせたり、堀越副団長を拉致したり、籠城している劇場を買収して明け渡しを迫ったり、生活の拠点とした消費組合の建物の差押えに出たり、可成り派手に闘いを挑んでいる。この間、会社側の暴力団は争議団員と小競合いを起して、団員3名を短刀で刺して瀕死の重傷を負わせている。

小学生の同盟休校を報じた東京朝日新聞

 争議の長期化するにつれて色々な事件が起ったが、1月16日より遂に団員の家族、児童546名が同盟休校し、争議団の指令の下に少年軍、少女軍を編成した。毎日、組合本部に集合、幹部がその教育に当ったが、先生の中には赤松常子氏もいた。学童盟休事件は学校当局はじめ各方面から問題になったが、強行した。盟休児童の教育は専ら戦意を高めることに置かれた。次に紹介する「我等の誓」も毎日繰り返したものである。

我 等 の 誓

 

問、我らは誰と共に闘っているか

答、父母と共に闘っている

 

問、我らは何の為に闘っているか

答、頑迷なる資本家を懲らす為に

 

問、我らはいつまで闘うか

答、敵を倒すまで闘う

 

間、未来は

答、我らのものである

 試みに教育中の調査をみれば、

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「大きくなって何になりたいですか」の問に「正しい立派な労働者になりたい」と答えている者が5年生91名中55名もいた。

竹槍1000本、日本刀44本、ピストル8挺、弾丸80発

 全国の労働者からは学童慰問袋が到着し、学校用具に不自由はしなかった。同時に激励の手紙も届いている。

私のお父さんは醬油屋の職工です。こんど野田町では、醬油屋の仕事を休んで会社と闘っているそうですが、最後まで勇気を出して下さい。お父さんお母さんに孝行して下さい(横浜市 5年生 女子)

 

皆様に何か送りたいと思いましたから毎日一、二銭ずつ貰った金一円送ります、争議に使って下さい。又御手紙差上げます。元気な勇気のある労働小学の子供になって下さい(群馬県藤岡町 高1年 男子)

 児童の団結は必然的に家族の団結であり、主婦達も黙ってはいなかった。婦人組合員と合流してデモに参加し気勢を上げている。町内にある重役達の豪荘な邸宅に押しかけたり、神社にお百度をふんで必勝を祈願したり、或る時は内務省本部に陳情の為主婦達200名が松戸まで片道五里の道を歩いている。野田に駅はあったが警察に押さえられるので、松戸駅に間隙を求めたのだが、矢張り押さえられて一部の者しか上京は出来なかったりした。

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 さらに一方、右翼団体も各地から入り込み、大和民労会、国粋会等が来ている。警察が押収しただけでも竹槍1000本、日本刀44本、ピストル8挺、弾丸80発にのぼっている。