1990年作品(105分)/松竹/2800円(税抜)/レンタルあり

 奥山和由にその映画人生を語ってもらった新刊『黙示録 映画プロデューサー・奥山和由の天国と地獄』の取材をしながら、あることに気づいた。

 それは、映画に対する感性にとても近いものがあったということだ。お話をうかがいながら、アクション・バイオレンス・セックスなどの刺激的な要素への好みが本当に似ていると思えたのだが、それだけではない。女優に対する好みも、実に似ていたのだ。

 そのことがハッキリ分かったのが、牧瀬里穂の存在だ。

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 今回取り上げる牧瀬主演映画『つぐみ』は、奥山がプロデュースした作品である。

 筆者は本連載第十七回で『幕末純情伝』を取り上げた際、中学時代に「あの頃の牧瀬」がどれだけ好きだったか、想いの丈を述べた上で「俺の好きな牧瀬の刻み込まれた唯一の時代劇」と締めくくった。

 これを企画したのが、奥山だった。しかも牧瀬の魅力に惚れ込んで。「分かっている人」が作ったのだから、大ファンだった身からすると大喜びの映画になるわけだ。取材しながら大いに納得できた。

 そして『つぐみ』は、『幕末~』以上に当時の牧瀬の魅力が爆発した作品。劇場で観たときめきは今も忘れられない。

 筆者が当時感じていた牧瀬の魅力は、その颯爽とした凜々しさと透明感。強さと儚さ、健康的で元気一杯に見せながら、どこか陰がある。そんなギャップにやられていた。

 本作には、そうした牧瀬が余すことなく映し出される。

 物語の舞台は西伊豆の漁港町。若者たちのひと夏の青春が淡いタッチで綴られる。

 牧瀬が演じるのはヒロイン・つぐみ。これがとにかくいい。バレバレなつけ髭で男に変装して外出する冒頭の元気さと、続く診療室の場面で見せる切なげな表情。誰に対しても二人称は「お前」呼ばわりで、基本的には「上手い刺身食わせてやるってウチのババアが言ってるぜ」といった乱暴な口ぶり。病弱だけれども勝気という、牧瀬のために用意されたようなキャラクターで、その蒼白い肌に輝く凜々しくも哀しい眼差しに、序盤から心を鷲掴みにされた。

 展開が大きくは動かない作品なのだが、むしろ好都合だ。市川準監督のリリカルな映像美によって煌(きらめ)く日常描写の中にたたずむ牧瀬の一挙手一投足、そして一つ一つの表情。その美しさとだけ向き合い、ひたすら浸ることができるのだから。特に、病床で退屈のあまり鏡に向かって変顔する場面のキュートさたるや――。いつ見てもキュンとなる。

 完璧な形で「あの頃の牧瀬」が刻まれた映画を作ってくれたからこそ、今も変わらず、ときめくことができる。

 ありがとう、奥山和由。