「男子厨房に…」と語る義父のメンツも妻も、両方守る荒岩
1つ目の神回は、第13話「COOK.13 コーヒー好きの人にちょっといいお酒」(第2巻に収録)。
荒岩が帰宅すると、急に孫の顔を見たくなって訪ねてきたという義父母が。荒岩が振る舞う料理に舌鼓を打ちながら、「わしらの頃は『男子厨房に入らず』とか『武士は食わねど……』とか言うての。男は台所ばウロチョロせんと言われんとったばってんがの。そんかわり女は育児 炊事 洗たく……家庭ばしっかり守るとが常識やったたいっ。わしゃ もう今の人たちのことはさっぱりわからんばい」と語る義父。そこへバツの悪いことに、仕事の付き合いで飲んでベロンベロンに酔っ払った虹子が帰ってくる。そんな娘の姿を見て「いくら仕事とはいえ女が酔っぱらって帰ってくるとはなにごとかっ!!」と激昂。とりなそうとする義母にも「おまえのしつけがなってなかったからじゃっ」と食って掛かる。まさに、いにしえの価値観を具現した男である。
そんな義父に、荒岩が放った言葉はいまだに俺の胸に刺さっている。
「さっき『男子厨房に……』とおっしゃってたでしょう。お義父さんの時代は それが一番おたがいの力を出せたんですよ。今 我が家はそんな意味でこれが一番いい型なんです」
妻を責めはせず、なおかつ義父ら“そうせざるをえなかった”世代への理解を示しながら、荒岩家の夫婦のあり方、従来とは違う現代の夫婦のあり方を諭す。そうして、娘が夫に教わって作ったという“コーヒー酒”を飲みながら納得する義父、荒岩の腕にしがみついて微笑む虹子、なんだか感銘を受けた12歳の俺。
ブタ汁を妻の上司に振る舞いながら、明かされる秘話
2つ目は、第20話「COOK.20 深酒の夜は激ウマ ブタ汁でふけゆく」(第2巻に収録)。
新聞社の文化部に所属する虹子が担当する連載記事「九州の祭り」が本になり、出版記念パーティーが開かれることに。部下たちと飲む予定だったものの、その直前に虹子からパーティーの話を聞かされた荒岩は“最初の一杯”をグビィッと飲み干すと、「じゃっオレはこれでっ!!」とさっさと帰宅。子供の夕食と風呂、月謝や積立金の整理、ゴミ出し、洗い物を済ました23時過ぎ、妻は上司の部長と同僚を引き連れて帰ってくる。
嫌な顔ひとつもせずに客人たちを迎え、寝てしまった妻を尻目に“荒岩ふうブタ汁”を振る舞う荒岩。それを食しながら、部長は「そーですか、わかりましたっ!!」といきなりひとりごちる。そして、虹子が小さな山村から離島まで九州の隅々を回り、各地に何日も泊まり込んでは住民たちと酒を酌み交わして一緒に神輿を担いでいたという取材ぶりを教え、「その理由がわかったような気がしますよ」と暗に荒岩のような夫がいるからこそだと続ける。客人が帰った後、スースーと眠る虹子、ホットウイスキーを飲みながら「九州の祭り」のページをめくる荒岩、なんだか感銘を受けた12歳の俺。