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『鬼滅の刃』の絵がスゴイのは、“作画”よりも〇〇の力? ジブリと正反対のアニメーション思想とは

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ジブリとは対照的なアニメ作りの思想

『鬼滅の刃』では、丁寧で緻密な“作画”を、“撮影”や“3DCG”で底上げすることによって「すごい映像」を作り上げている。しかし実はufotableの美学は、過去の大ヒットアニメとは大きく異なると沓名氏は語る。とりわけ、沓名氏も一時期在籍していたスタジオジブリ・宮崎駿監督とは対照的だという。

「ufotableと宮崎作品では、アニメーションに対する思想がまったく異なります。宮崎さんにとってアニメとは、何より“作画”によって絵が生き生きと動くこと。そのためにキャラクターのデザインは線が少なく動かしやすいシンプルなものにし、動く絵を見せたいので“撮影”処理を派手に盛ることもありません。いわば宮崎駿という作家のこだわりの詰まったアートフィルムなんです」

それぞれの個性を短い時間で伝えきる 『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』公開中PVより

 例えば『千と千尋の神隠し』であれば、千尋が釜爺のもとを訪ねる場面は“作画”的な名シーンとして知られている。

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「キャラクターはもとより、髪の毛、服の皺、炎、蒸気、影など、画面の中のあらゆるものが“作画”でコントロールされ、キャラクターのボリュームも変化し続けています。そうすることによって、通常の作画では表現することが難しい、キャラクターのわずかな呼吸までをも観客に感じさせることができるんです」

 この場面は作品の中でも表現が異質でやや浮いた印象を与えるが、安定感や統一感を犠牲にしてでも“作画”的表現を優先するのが、宮崎駿という作家の思想なのだという。

羽織や額の傷は「動かしづらい」はずなのに

それに対して、『鬼滅の刃』の作画はどうか。

「主人公・竈門炭治郎の羽織や額の傷といった、動かすことに不向きな複雑なデザインが全編、キャラクターの挙動に合わせて丁寧に作画されています。僅かに動かすだけでも大変なところを、魘夢(下弦の壱)との戦いではあのデザインのまま、空中で身体を捻らせるアクションが何度も描かれていて、これを実現するために必要な膨大な作業量を思うと、同じアニメーターとして圧倒されるところがあります」

 そのうえで、沓名氏はジブリとの相違点として「『鬼滅の刃』は絵的に浮いたシーンがなく、キャラクターのデザインやボリュームの一貫性も常に保たれている」と指摘。そんなufotableの目指すところを、こう推測する。

「おそらく原作やファンの気持ちを第一に考えて、観客が本当に喜ぶメディアミックス作品を送り届けることを大切にしているのではないでしょうか」

作画と撮影によるエフェクトが相乗効果を生む 『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』公開中PVより

 ufotableはこれまでも『Fate』シリーズや『空の境界』、『刀剣乱舞』や『テイルズオブ』シリーズなど、さまざまな人気作をアニメ化し、ヒットを導いてきた。それはファンの心を理解し、原作のイメージを大切にしてきたからこそ成し得たことだろう。