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地下鉄サリン事件「被告人もまた、不幸かつ不運」 裁判長が死刑囚・林泰男をほめたワケ

『私が見た21の死刑判決』より#18

2020/12/26

source : 文春新書

genre : エンタメ, 社会, 読書

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実行役と送迎役の壁

 それから、麻原の指名を受けて、地下鉄サリン事件の実行役と送迎役に割り振られ、共犯者として未曾有のテロ事件を決行。同事件でいっしょに逮捕、起訴されてから、杉本は自らが首を絞めて信徒を殺害したリンチ事件を自供することで「自首」している。そのことで、共犯者3人が再逮捕、再起訴された。

 生い立ちも、教団内での立場も異なっていた3人が、殺人犯として裁かれた。交わす言葉などなかった。

 豊田は、日比谷線車内に撒いたサリンで、人1人を殺した。

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 廣瀬も、やはり丸ノ内線で1人を殺している。

©iStock.com

 そして、杉本は地下鉄サリン事件においては、実行役を補佐する運転手役だが、リンチ殺人で2人、そのうちの1人は自分の手でロープを引っ張って殺している。

 しかし、杉本が死刑でなかったのは、「自首」が認められたことに他ならなかった。

 判決に先立つ、検察側の論告求刑の中で、既に検察も「自首」の成立を認めて、あえて死刑を求刑していなかった。その時の杉本は、手にした水色のタオルで目から溢れ出る涙をしきりに拭っていた。

 罪を認め、誠実な態度で裁判に臨み、事案の追及に貢献したことが認められた、反省と恭順の姿勢が実を結んだことに、感涙を止めようがなかったのだろう。

 しかし、その同じ法廷で死刑が求刑された豊田と廣瀬は、じっと硬くなったまま身動きすらしなかった。

 刑によって生死を隔てるもの。目に見えない裁判の壁。そして、持って生まれたもの。生い立ちと巡り合わせ。

 判決の中には、こんな文言が盛り込まれていた。