「ヤクザにとって親子盃を交わすことは、親分に自分の命を預けるという不条理を飲み込むこと」
関西に拠点を構える指定暴力団幹部は、暴力団組員にとっての「盃」の重要性について、このように語る。
ただ、暴力団業界において、親分と盃を交わすことで生まれる「不条理」はそれだけではない。「親分=子分」の関係にとどまらない、様々な人間関係が生まれるのだ。
序列が一気に入れ替わる「盃」の不条理
「親分から盃をもらって組織の『若い衆』になるということは、組のため、親分のために尽くすということ。ケンカがあれば行かねばならないし、そうなれば、長期間の懲役になることも覚悟しなければならない。こうした不条理を飲み込む覚悟を若い衆も持っているものだ」
前出の指定暴力団幹部はこのように強調したうえで、さらに違った意味の「不条理」があるという。
「例えば、自分の『兄弟分』にあたる幹部がいて、親分として組織を持っていたとする。自分にとってその幹部の子分は、兄弟分の子だから『甥っ子』にあたる。だから、その甥っ子に『おいタバコ買って来い』と言いつけると『分かりました』とすぐに店に走らなくてはいけない、といった関係になる。
しかし、兄弟分の幹部が引退したり亡くなったりして、その甥っ子が後を継ぐこともある。そうなると、キャリアの違いはあれ自分と同格の組長となる。さらに、その上の組織の組長の後を継ぐようなことがあれば、自分が『甥っ子』となり、相手を『おじさん』と呼ばなければならない。今度は逆に、甥っ子だったはずの相手に『タバコを買って来い』と言われれば『分かりました』と返事をしなければならない。こうした不条理もある」
「甥っ子」が兄貴になるケース
この幹部が明かす複雑な“不条理”を整理すると、次のようになる。
ある大きな暴力団組織の中に3次団体の組長Aがいたとする。別の3次団体の組長Bとは、同じ暴力団組織内では同格となるため「兄弟分」となる。疑似血縁関係では、組長Bの子分Cは、Aにとってみれば「甥っ子」となる。しかし、CがBの後を継ぎ、3次団体の組長に昇格すればAと同格となり、お互いに兄弟分となる。