中国をメインテーマに硬軟とりまぜた執筆活動を行うルポライターの安田峰俊氏が、中国の「性事(性事情)」から「政治」を透かして考察した書籍『性と欲望の中国』(文春新書)が好評を博している。

 ここでは同書の一部を引用し、中国人の生活になくてはならないチャットアプリで交わされる“異様”なやりとりを紹介。監視社会である中国で、いったいなぜ違法な取引が後を絶たないのか……。(全3回の3回目/#1#2を読む)

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中国人の生活インフラ

 近年、中国人の日常に欠かせない生活インフラになっているのが、微信(WeChat)やQQといったチャットアプリだ。いずれも同じテンセント社が提供しているサービスだが、社内での開発グループが異なっており、事実上はライバル関係にある。なお、2018年末の月間アクティブ・ユーザー数は微信が10.98億人で、QQが8.07億人。利用者の大部分は中国人とはいえ、桁違いの人数が利用している化け物アプリである。

 微信は、競合するLINEやWhatsAppに似たスタイリッシュな使用感が特徴だが、QQはゴテゴテとしたデコレーション機能が多く、いわゆる中国版のマイルドヤンキー層や学生から特に根強い支持がある。

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 QQの特徴は、「QQ群(キューキューチュン)」と呼ばれる見ず知らずのユーザーが大量に繋がれるコミュニティサービスだ。学校のクラスや趣味の同好会などの仲間のつながりなどに活用されているが、QQ群の管理人の承認を受ければクローズドで情報をやりとりできることから、よからぬ目的で使われる例も少なくない。たとえば、ニセ外国人登録証が当たり前のように売買されている在日中国人の不法就労者コミュや、職場を逃亡した技能実習生のコミュなども、その気になれば簡単に見つけることができる。

痴漢同好会「いいね族」の卑劣な日常

 2017年夏に中国メディアを騒がせたのが、痴漢が集まる様々なQQ群である。

 たとえば同年7月18日に中国江蘇省の新聞社系ウェブニュースサイト『淮海網』が、2015年6月に結成されたという中国の代表的な痴漢同好者コミュ「公交地鉄交流群(=バス地下鉄交流コミュ)」について詳しく報じている。こちらは管理人に9.8元(約160円)のウェブマネーを支払って加入する有料コミュながら、メンバー数は1000人を超えていた。コミュのローカルルールとして、新たに加入したメンバーは所在地・性別・ハンドルネームを自己紹介する決まりであった(なお、同コミュは現在すでに削除されている)。