31歳の時に結婚。
結婚する意思は全然なかったんです。20歳の時に「結婚しないよ」って親に宣言したくらいでしたから。女性は結婚したら仕事を止めて家庭に入らなきゃいけない、という風潮が当時は強かったんですが、私はずっと漫画を描きたかったので。
ただ、夫と会った時に「あ、私この人と結婚する」ってピッとなぜか思っちゃって、2カ月後には婚約をしていました。出会いは雑誌のインタビューで、フリーのカメラマンをしていた夫が私の写真を撮りに来たこと。遅刻した編集さんを待っている間、二人でおしゃべりをしている時に、縁としか言いようのないものを感じたんです。
結婚から1年ほどたった頃、仕事場を別に借り、主人の母を田舎から呼び寄せて自宅で3人暮らしを始めました。お義母さんは亡くなったんですが、すごく仲がよかったんですよ。お義母さんとふたりで、主人の悪口を言ったりして(笑)。これもまた縁だと思いますね。
その家は2009年の四月に取り壊して、土地を広げて建て直しました。1階を夫が経営するレストラン、2階を私の仕事場にしようと思っていたんですが、そういう設計で建てたら自宅スペースがほとんどなくなって(笑)。
別荘代わりに“縄文小屋”を作るのが夢なんです
ライフワークとなった『ガラスの仮面』は伝説の戯曲「紅天女」のヒロインの座を争う最終決戦の真っ只中。雑誌掲載時の原稿を単行本用に全ページ描き直すなど、通常の漫画制作ではあり得ない徹底したこだわりぶりは、もはや伝説と化している。
後悔したくないんですよね。演劇はナマモノですから、記憶の中では残るけれども形としては残らない。でも、漫画は本に印刷されて残っていくものですから、できるだけこだわって、自分の思う形で世に送り出したいと思うんです。そうすると、どうしても時間がかかるんです。
いつまでたっても、家は仕事場。それもいいかなと思ってはいるんですが、実は憧れの家があるんですよ。私はNPO法人で葦船を作る活動をしているんですけれど、私に葦船作りの楽しさを教えてくれた青年が、「僕の秘密基地です」と言って招待してくれた場所があって。
伊豆大島のジャングルを分け入った先にある、葦で作った三角形の家なんですね。ピラミッド状に葦が組んであって、中に入ると真ん中に囲炉裏(いろり)があり、それを囲んでみんなが座れるようになっている。まるっきり、縄文小屋なんですよ。居心地もいいし面白いし素敵だなと思ったんです。私も、自分の空いている土地にこういうものを作って、いろんな人を招いて遊びたいと思ってるんです。
別荘代わりにいつか縄文小屋を作ってみたい、そんな夢を持っています。でも、縄文小屋で仕事はできないですからね。とりあえずしばらくは、くつろげることのない家にカンヅメして、漫画を頑張ります。
(取材・構成 吉田大助)
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【追記】『ガラスの仮面』は能やオペラ、関連舞台にと広がりました。夫の経営する吉祥寺のレストラン「カフェ・デュ・クレプスキュール」の前には、葦船を飾っています。