そして「T4編成」と「T5編成」が現在のドクターイエローだ。ベースとなった車両は「カモノハシ」の愛称で知られる700系だった。「T4編成」こと923形は2000年、「T5編成」こと923形3000番代は2005年に稼働開始した。

N700Aと並ぶドクターイエロー、先頭車の形が違う
今後はN700Sに搭載された機器で計測する(筆者撮影 2021年)

「もうドクターイエローは作らない」という巨大な決断

 ドクターイエローが交代する理由は老朽化だけではない。営業車両が新型に変わりスピードアップすると、旧型をベースとしたドクターイエローは日中ののぞみ12本ダイヤについて行けない。IT技術の進化も理由の1つ。検査機器を更新し、より正確に、より多くの情報を収集したい。

 この法則が続くと、次のドクターイエローはN700Sをベースにした「T6編成」「T7編成」になるわけだが、もうドクターイエローは作らない。

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ドクターイエローの「巣」大井車両基地。陸橋の歩道側から見物できる
この写真は犬の散歩中にケータイカメラで撮影した(筆者撮影 2011年)

 そのかわり、N700Sの営業車両に検査機器を搭載する。すでに2019年からN700Sの6編成に線路検査システムを搭載している。2021年から架線と保安信号の検査システムも追加された。ドクターイエローで10日に1度だった検査は、営業車両を使って1日数回の頻度になった。

 今後、2026年度から2028年度にかけて、さらに新たな検査機能を搭載するN700Sを17編成製造する。搭載機器の小型化だけではなく、点群データを使った画像解析技術やAIを活用した判定、高速通信機能を搭載し、リアルタイムで状況を指令所に報告する。

 そのデータが夜間の保守点検に使われる。先日、東海道新幹線で夜間に保守車両が衝突脱線するという残念な事故が起きてしまった。原因はまだ明らかになっていないけれども、リアルタイムで適格な検査データがあれば、保守作業も分散化でき、安全にもつながるはずだ。

700系の顔(大井車両基地にて筆者撮影 2017年の取材)
点検中のドクターイエロー(大井車両基地にて筆者撮影 2017年の取材)

 幸せの黄色い新幹線は去ってしまうけれども、その役割はN700Sに移る。これからはN700Sを見て幸せを感じよう……と、これはちょっと無理があるか。

 なお、JR東海は東海道新幹線60周年を記念して、2024年10月12日に「T5編成」の体験乗車イベントを実施する。募集定員は50名、抽選申込期間は2024年8月8日から2024年8月15日まで。ほかに2024年8月2日から2024年9月23日(923形の日?)まで、「鉄推し!~ハピネス・イエローキャンペーン~」を実施中だ。新幹線に乗車するなどでポイントを集めると、「T4編成」の体験乗車イベントの抽選に応募できるという。