徳川夢声(とくがわむせい)(1894―1971)は、NHKラジオ『宮本武蔵』の朗読が大評判になるなど、戦前から俳優、漫談家として名を成し、作家としても直木賞候補になっている。戦後の1949(昭和20四)年、「文藝春秋」に掲載された記事「天皇陛下大いに笑ふ」は大きな話題に。その後も雑誌、ラジオ、テレビで幅広く活躍した。福原一雄(ふくはらかずお)氏は長男。
府立一中を出た父は一高、東大へと進みたかったようですが、一高の入試に2度失敗しています。父はもともと落語が好きで、一高への夢を断念すると、祖父に「噺家になりたい」と相談しました。そのとき、世間体を考えた祖父は、「俺の友人が寄席で息子の顔を見るのはまずい。活弁はどうだ。活弁なら暗いところで喋るから、よもや顔を見られることもあるまい」と、活動弁士への道を勧めたそうです。
父が活弁で活躍したのは大正時代です。私は昭和12年生まれですので、その活躍ぶりは分かりません。

父、徳川夢声のプロの話芸に初めて接したのは、ラジオから流れる吉川英治原作『宮本武蔵』の朗読でした。日本放送協会の連続放送劇『宮本武蔵』は、昭和15年1月に始まり、途中で中断はあったものの、昭和20年1月まで続いています。
その番組の狙いは戦意高揚にあり、父は剣の極意や果たし合いを中心に場面を構成していたようです。時代が時代でしたから、女性が絡む場面にはとくに気を配り、原作に何度も手を加えています。そのため父が持っていた原作本は書き込みで真っ黒でした。
原作者の吉川英治さんは、父に「『宮本武蔵』は僕が書いたけど、あれはきみのものだよ」とおっしゃったそうです。
敗色が濃厚になっても、父は「全国の聴取者は、この番組が続いている限り、首都東京は大丈夫だと安心する」といって、その番組だけは、どんなことがあっても続けていました。
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source : 文藝春秋 1989年9月号