構想3年、制作2カ月。特集「つながらない新生活様式」ができるまで 東畑開人、鈴木俊貴、羽生結弦……

vol.108

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「文藝春秋」7月号の特集「つながらない新生活様式」を思いついたきっかけは、「文學界」で連載されている作家の松浦寿輝さんのエッセイを読んだことでした。

 松浦さんはある日、電車で周囲を見回すと、スマホを覗き込む乗客ばかりであることに気づきます。そこから文明批評を展開し、現代においては「無意味な『放心』、純粋状態の『放心』が不可能になってしまったとでも言おうか」というとりあえずの結論に達します。そして、松浦さんは次のように続けます。

〈いつだったか、若い世代に何か贈りたい言葉は、と訊かれ、何もありませんと答えるほかなかった。教師業からとっくに身を退いている以上そんな問いに無理やり答えを捏造する義理も義務もないし、そもそも今の世でわたしのほうが若者より上手くやれることが何かあるとも思えない。だが、先日、セルジオ・メンデス&ブラジル’66の“Look Around”というアルバムを聴き返していて(これはわたしが中学生のとき自分の小遣いで生まれて初めて買ったLP)、ああ、あの問いにこう答えてやれば良かったなと思った。つまり、ルック・アラウンド、画面から顔を上げて、空に心を投げてみたらどうかな、と。〉
(「遊歩遊心」第30回「Look Around」、「文學界」2022年3月号)

 この文章を書くために出典を探したところ、「きっかけ」というには、あまりに昔の号だったのに愕然としましたが、「ルック・アラウンド」はいい言葉だなあ、と思いながら過ごすうちに今度は、X(旧ツイッター)で臨床心理士の東畑開人さんの次のようなツイートに出合いました。

〈以前は映画館ではなく家で映画を見ることにひとり感があったのかもしれないが、スマホが事態を一変させているように思う。部屋にひとりでいても常にメッセージがくるし、SNSには人々の喧騒がある。むしろ、映画館でスマホを遮断することで、ようやくひとりになって、物語に没入できる気がするな。〉(2024年8月22日)

東畑開人氏 ©文藝春秋

 そのとき、仕事では「常時接続」を求められ、暇になるとスマホを見てしまう「接続過剰」な社会に多くの人が疑問を持ったり、その循環から抜け出そうとしているのではないか、という思いが心に浮かびました。そこから、でも「つながりすぎ」の社会とほどよい距離を保ち、そこからうまく一時離脱する知恵や技術を会得している人もたくさんいるのではないか、そんな「つながらない新生活様式」があるならば、私もぜひ聞いてみたいし、読者も知りたいはず、というアイデアが膨らんでいきました。

 こんな風にして、特集「つながらない新生活様式」の制作が始まりました。

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