赤坂の料亭

クリスチャン・ボラー 「トゥールダルジャン 東京」総支配人
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「トゥールダルジャン 東京」が、千代田区紀尾井町の「ホテルニューオータニ」にオープンしたのは、1984年。この年、日本代表総支配人として来日した私は、当時26歳でした。

 まず驚いたのは、日本人の勤勉ぶりです。予定通りの期日に店をオープンできるようにと、現場の業者の方々が夜通し作業をする様子を見て、感銘を受けました。

クリスチャン・ボラー氏(本人提供)

 あれから40年。「ホテルニューオータニ」周辺の景色はずいぶん変わりました。古い民家が軒を連ね、洗濯物が風にはためき、猫が日向ぼっこをする。来日当初は、紀尾井町にも、そのようなのんびりした光景が見られました。しかし、今では新しいビルが立ち並び、通りを歩く猫もめっきり見かけなくなりました。

 ホテル周辺で私が気に入っていたのが、道端にあった湧水です。「東洋の水の都」と称される東京には、かつては水路や運河が張りめぐらされ、湧水もいたるところで出ていたと聞いたことがあります。ホテル近くでこんこんと湧き出る水の美しさに目を奪われましたが、それもいつしかなくなってしまいました。

「トゥールダルジャン 東京」のオープン後、まもなくバブル景気が訪れ、料亭が並ぶ赤坂の路地は、送迎のハイヤーで連日の大渋滞。私は「トゥールダルジャン 東京」のライバルは料亭だと考えていました。というのも、日本では「接待といえば料亭」というイメージがある。そこで、研究のために日本のおもてなしを体感しようと思い、さまざまな料亭に足を運びました。かなりの数を回ったので、家計に響いたと思いますが、日本人の妻が「自分への投資だから気にしないで」と応援してくれたのがありがたかった。

 来日当初は、日本食についても知らないことばかり。知人の家で冷奴を出されたのですが、見たことも食べたこともなかった私は、フロマージュ・ブラン(白いフレッシュチーズ)の上に削った段ボールが載っているのかと思ってしまった。それが今では、冷奴が大好きで、鰹節だけでなく茗荷を載せるなど薬味を工夫して自分好みの楽しみ方をしています。

 鰹節といえば、かつては家庭に1台鰹節の削り箱があったものです。我が家にもありましたが、最近はあまり使わなくなりました。出来立ての豆腐を売る豆腐屋さんも、かつては街中にたくさんありましたが、今は少なくなってしまいましたね。

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source : 文藝春秋 2025年9月号

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