日本で初めて探偵小説を書き、その魅力を伝えた作家、江戸川乱歩(えどがわらんぽ)(1894―1965)。彼の70年の生涯を、乱歩の下で雑誌「ヒッチコックマガジン」編集長を務めた作家の小林信彦(こばやしのぶひこ)氏が綴る。
江戸川乱歩という作家を説明するのは非常にむずかしい。
江戸川乱歩こと平井太郎が探偵小説作家として自立するまでを書くだけでも原稿用紙数10枚を要するだろうが、小説だけを考えればそうでもない。岩波文庫で2008年に出た「江戸川乱歩短篇集」一冊を読めば、そのユニークさはいやでも認めざるをえないだろう。
関東大震災直後の東京に現れた一人の人物が、日本で初めての探偵小説を次々に書いた。それらの小説は〈震災まえの東京〉と入れ違いに登場したとも考えられるだろう。

第一作の「二銭銅貨」にはじまる作品は〈少年時代から出版を志していた〉人物によって書かれた。出版事業への熱は、実は晩年まで続くのだが、こうした実務好きとエドガー・アラン・ポーやコナン・ドイルのような探偵小説への憧れが一体となったのが、この人物であった。
彼はしばしば放浪の旅に出たが、旅の途中で読んだ谷崎潤一郎の「金色の死」に驚く。彼が好んだ宇野浩二や佐藤春夫も、谷崎と同じ意味で、自然主義中心の日本文学と離れた存在であった。
大正12年、当時もっとも〈新しい雑誌〉だった「新青年」4月号に、小酒井不木(こさかいふぼく)の推薦評論とともに、「二銭銅貨」がのった。筆名の江戸川乱歩は、エドガー・アラン・ポーのもじりである。
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source : 文藝春秋 2013年1月号

