『少年探偵団』(ポプラ文庫)江戸川乱歩
昭和12年の「少年倶楽部」に連載された。乱歩の怪人二十面相シリーズはこの前年にスタートしていたのだが、当時のぼくは弟雑誌「幼年倶楽部」を購読していて気付かず、1年遅れた。こんな面白い小説があるのかと驚き、対象読者の年齢層もかまわず以後ランポと名がつけば『魔術師』『二銭銅貨』『孤島の鬼』『心理試験』と乱読した。読むのが連載に追いついたのは『地獄の道化師』からだ。戦後、探偵小説が推理小説と名が変わっても読み続け、50年前から作者を兼ねるようになったぼくだが、読者歴の方が長いので今でも書くより読む方に自信がある。でもまさか二十面相の続編(正しくは間隙を埋めた2作)を、自分で書くことになるとは思わなかった。
『シナリオ 雪』黒澤明
昭和17年「新映画」4月号収載の脚本で、助監督時代(『馬』の撮影中だった)のクロサワが「国策映画」脚本のコンクールに当選(入選とは記されていない)、はじめて脚光を浴びた作品。シナリオが活字になるのは暁天の星だったから、夢中で読み、書き写し、我流のコンテまで切った。のちにNHKテレビへ就職したとき、この中坊時代の体験が役に立った。高峰秀子、池部良、古川ロッパ、渡辺篤、徳川夢声とイメージキャストまで組んだエンピツのメモが誌面に残っている。ロッパさん、渡辺さんについては、15年ののち実際に演出する機会に恵まれた。脳内でふくらませた映像をこうやって文章に定着するのかと感奮、シナリオライターを志望した中学生であった。
『ジャングル大帝』(小学館文庫)手塚治虫
戦後「漫画少年」誌に載った大河長編マンガだが、大半は連載中に書店で立ち読みした。最終回ムーン山でレオが死に、その毛皮で寒さを凌いだヒゲオヤジが生還する場面では、立ち読みしながら落涙がとまらず進退極まった記憶が鮮明だ。アニメになったときは1年半にわたってメインのシナリオライターを務め、主題歌の作詞を受け持った。連載時も単行本も熟読して血肉となった物語だけに、海外売りの契約に縛られ原作が使えなくても、辛うじてエッセンスだけは伝えたつもりでいる。
芥川の箴言が脳に刺さる
上記3本がまさしくぼくの人生を決定した。それぞれに悔いのない作品との邂逅だったが、あと2冊、ぼくにヒトや時代の見つめ方を示唆してくれた本がある。
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source : 文藝春秋 2023年5月号