前回は、豊臣秀長が織田家の家臣となり、信長の「長」をもらって木下小一郎長秀と名乗っていたことをお話ししました。今回は、秀長が兄の秀吉に従い、但馬(いまの兵庫県北部)、播磨(いまの兵庫県南西部)に進出する頃から、天正10(1582)年6月2日、本能寺の変で信長が斃(たお)れるあたりまでの軌跡を追いかけてみたいと思います。
ここで基礎史料となるのが、秀長の文書(もんじょ)です。文書とは書状や手紙のことですが、これは当時リアルタイムで飛び交った同時代の書簡史料で、歴史学では一次史料として大変重視されます。前回、昨年ようやく『豊臣秀吉文書集』全9巻が完結した話をしましたが、秀吉なら秀吉が出した手紙を全部拾い集めて、本物らしいかどうかを全部チェックし、「いつ出されたものか」と年代比定を行う。解読して活字化する。これが歴史研究の基礎作業になります。
ちなみに真偽が疑わしい史料について、古道具屋さんの世界では「ふざけたもの」とか「あかんもの」とか「写し」という言い方をします。私たち歴史学者の世界でも、「偽物」とは、あまり書きません。「要検討」、検討を要す、というのです。だから、そのように書いてあれば、「偽物の可能性もある。怪しいぞ」という意味だと思ってください。歴史学の世界では、「要検討」の文書が重要な論拠となっているような論考は論文としては認められません。
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