本当に健康に良い「サウナー」入門

ライフ 医療
昨今、大ブームが巻き起こっているサウナ。自身も毎日通うという愛好家の医師が教える「正しいサウナの入り方」とは。

<この記事のポイント>

●サウナは、身体の疲労回復に効くだけでなく「脳の疲れ」にも効く。デジタルデトックスに最適
●「ととのう」を医学的にいうと「急激な温冷刺激による異常感覚」
●間違った入り方をしている人がいる。「汗をかくほど体が温まった」という認識は間違い
加藤先生写真
 
加藤氏

毎日サウナに通う

 コロナ禍にかかわらず、今サウナがブームとなっています。

 諸説ありますが、サウナは1964年の東京オリンピックの際に、フィンランド選手団が日本でも体調管理ができるように持ち込んだことがきっかけといわれています。その効果が評判を呼び、高度経済成長期に多くの働く人たちに広まりました。

 そして現在、再びサウナブームが巻き起こっています。背景に仕事をする環境の変化が挙げられます。

 インターネットが普及し、ここ数年、働き方が目まぐるしく変わりました。パソコンをつねに持ち歩き、スマートフォンには絶えずメールが届き、仕事に際限がありません。テレワークという新しい働き方が取り入れられ、働く場所も様変わりしました。急激な変化に適応しようとビジネスパーソンは緊張を強いられる毎日です。

 そこで、ストレスを解消したい、仕事の効率も上げたい、そんなわがままをかなえてくれるのが「サウナ」です。

 最近では『マンガ サ道』が話題を呼び、ドラマ化もされ、「サウナー」と呼ばれるサウナ愛好家たちが現れました。私自身も3年前に友人にすすめられて初めてサウナを体験し、今では毎日通っています。その魅力にはまって研究に明け暮れ、『医者が教えるサウナの教科書』(ダイヤモンド社)まで執筆しました。

脳は意外と疲れている

 実際、サウナはどんな効果をもたらすのでしょうか。

 サウナが身体の疲労回復に効くことは知られていますが、意外に知られていないのが、脳の疲れにも効くことです。

 今日は脳が疲れたなと意識されることはほとんどないでしょう。でも、憩いを求めてカフェでぼーっと過ごすことはありませんか。

 ところが、ぼーっと過ごしているつもりでも、実は脳は休んでいません。体内の機能をコントロールしたり、ホルモンを分泌したり、何かを思いついたり……心を休ませているつもりでいて、脳は気づかないうちに多くのタスクを処理しています。

 このように雑念が働いている脳の領域をDMN(デフォルト・モード・ネットワーク)といいます。近年の脳科学研究によってわかった脳内で働く神経回路で、人間がすぐ活動できるように待機している状態をさします。車が止まったまま、アイドリングしているようなイメージですね。

 このDMNが曲者で、必要以上に働きすぎていることが多い。多くの情報に取り囲まれた今、何も考えていないつもりでも無意識にごちゃごちゃと考えてしまい、考えるな、煩悩を捨て去れと思っても、そう考えるだけで逆効果です。

 雑念を払うなら瞑想を……といってもこれも難しい。アップルの創業者、スティーブ・ジョブズは瞑想をよく行ったことが知られていますが、瞑想法を体得するには10日間~60日間の訓練を繰り返し行うことが必要です。すぐには実践できません。

 では、DMNの過活動を抑えるにはどうすればいいのでしょうか。

 答えはシンプルで、ひとつのことに「集中すること」です。何かに集中すると余計脳が疲れてしまいそうですが、そんなことはありません。

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人気が再燃するサウナ

 脳の働きは2つに分けられます。

 一つはDMNで、エネルギーの消費量が約80%。もう一つは仕事や家事など物事に集中したときに働くCEN(セントラル・エグゼクティブ・ネットワーク)で、エネルギー消費量は約5%とごくわずかなのです。

 DMNとCENはどちらか一つしか働かず、片方が活動すれば、もう片方は活動しません。つまりCENを選べばDMNは抑えられ、脳が疲れにくくなります。

 たとえば、洗濯機の渦をずっと見ていたいような衝動に駆られることはありませんか? 私だけかもしれませんが(笑)。これは洗濯機の渦を無心に眺めることで、CENが働いているのです。ただ、いつも洗濯機の前にいられるわけではありません。

 そこで役立つのがサウナです。サウナ室は極端に熱く、人体にとって過酷な場となるので余計なことを考えられなくなります。薄暗く、おしゃべりもほとんどしないうえに、汗をかいて刻々と変わっていく体の変化に意識を集中させやすい。つまりDMNを抑えやすい環境なのです。

 そして最も重要なのはスマートフォンを持ち込めないこと。メールやSNSなどこまめな確認は脳に無駄な情報処理を課すため、脳疲労を促進させてしまいます。サウナ室はデジタルデトックスに最適の場所です。

話題の「ととのう」とは

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source : 文藝春秋 2020年12月号

genre : ライフ 医療