フリーダム・オブ・プレス賞を受賞して

日本再生 第78回

立花 隆 ジャーナリスト
ライフ

 つい先だって、在日外国特派員協会(いわゆる外国人記者クラブ)から、同協会は日本で報道の自由(フリーダム・オブ・プレス)を推進した人物(業績)に対して、フリーダム・オブ・プレス賞を与えてきたが、「今年は貴殿の同分野におけるこれまでの長い業績に対して、『生涯功労賞(ライフタイム・アチーブメント・アウォード)』を与えることに決めました。ぜひお受け取りください」という報せが舞い込んだ。喜んでいただくことにして、その授賞式(クラブの晩餐会)に出席してきた。

 今年の報道の自由推進賞の年度賞(調査報道賞)は、朝日新聞大阪本社の2人の記者が受賞した。学校法人森友学園への不可解な国有地払い下げ問題(周辺地価の10分の1といわれる)のスクープに対して与えられた。

 賞の中心は、今もホットな問題でありつづけているその森友問題のほうである。私の生涯功労賞などというものは、いわば名誉賞のようなもので、つけ足しだ。

 私のライフタイム・アチーブメントの原点にあるのは、1974年の「文藝春秋」11月号に発表した「田中角栄研究」である。これが歴史に名を残すことになった大きな契機が、外国人記者クラブに田中角栄首相(当時)を呼んでの昼食会での一大記者会見にあったことを知る人は、今となっては少いだろうと思ったので、そのあたりのことを受賞記念のスピーチで簡単に述べた。

「『田中角栄研究』は60ページ余りにわたり、田中角栄というきわめて特異な政治家の金脈と人脈を詳細に暴いた長文のレポートです。これが発行されてすぐ私のところに取材にやってきて、「あそこに書かれていることは本当か」と問いただしたのは、ワシントン・ポスト、ニューズウィーク、ボルチモア・サンなどの外国人記者が中心で、日本人記者はほとんどゼロでした。日本人政治記者はここに書かれているようなことならみんなとっくに知っている(だから聞くまでもない)という態度で無視しておりました。しかし、角栄研究の中には、古手の政治記者も知らない多数の新事実があり、それがやがて国会でも取りあげられ、ついには検察の追及も受けるようになります(新星企業事件など)。しかし日本の新聞各紙が田中角栄研究の後追い記事を書くことは(国会での追及がはじまるまで)まったくありませんでした。

 外国人記者の間では、一紙(誌)が書けば、アッという間に話が広がります(平気で他のメディアの追及を援用するカルチャーがある)。特にワシントン・ポスト、ニューズウィークの影響力は大きく、疑惑の骨子はアッという間に記者たちの共通認識になりました。そこに田中首相がやってきたわけですから、その日の記者会見は、文春がこう書いているが、『あれは本当か』、『これは本当か』の遠慮会釈もない質問の連発になりました。日本の記者会見はもっとずっとおとなしいもので記者たちのボスの間でセットアップされた答えやすい質問を並べるものでしたから、田中首相はその質問攻勢に立ち往生してしまいます。そしてその立ち往生そのものがニュースになってしまいます。つまり、田中金脈問題は、私の田中角栄研究のレポートと外国人記者クラブでの質問連発記者会見を合わせた一本の一大社会事件として一挙に火が点いたのです」

 あの昼食会の日に起きた最大のことは、日本のメディア文化の中に、他のメディアの追及を平気で援用(引用)するという、それまでの日本のメディア文化の中にはなかった現象が一挙に広まったことにあると私は思っている(今ではそれは当り前のことになっている)。

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source : 文藝春秋 2017年11月号

genre : ライフ