作家・杉本苑子(すぎもとそのこ)は、長い修業の時代をへて、豊かな歴史小説の世界を開花させた。
師事していた吉川英治は、習作を続ける苑子に何もいわなかった。20歳代が終るころ、実は才能がないのではと不安になり、おそるおそる訊ねると、吉川は肩を震わせて怒った。
「私が、才能のない者に習作を続けろというような、無責任な人間と思っていたのか」
苑子は悔いてそれからも習作を続けた。
1925(大正14)年、東京に生まれる。父は薬剤師。小学生の頃から小説が好きだった。歩きながら吉川英治の『神州天馬侠』を読んで自転車に撥ねられたこともある。
旧制千代田女子専門学校(現・武蔵野大学)時代には、神宮外苑の出陣学徒壮行会で、学生たちにハンカチを振り涙を流した。終戦直後は、家計を助けるため極東軍事裁判所でウェイトレスとして働いたが、やめて文化学院文科に入学した。
卒業後、51(昭和26)年、「申楽新記」が『サンデー毎日』の懸賞小説の佳作になる。このとき選考委員だった吉川に、翌年、弟子入りを願い出たところ、「10年は勉強する」というのが吉川の条件だった。
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source : 文藝春秋 2017年08月号