遺伝子組み換え(GM)作物は、特定の除草剤(ラウンドアップなど)に対して耐性を持つものが多数開発され、大豆やトウモロコシなどの作物にも雑草にも区別なく散布しても、作物は枯れずに雑草だけが枯れる。そのため、除草の手間が削減でき、雑草の駆逐により収量も上がるとされてきた。
しかし、除草剤をかけても枯れない耐性雑草が出現するため、除草剤の量を増やし、新たな除草剤とそれに耐性を持つGM作物の開発もするが、再び耐性雑草が出現するというイタチごっこに陥っている。このため想定された生産の効率化も図れず、環境や人体への影響への懸念も高まる事態となっている。
作物を食べた害虫だけが死ぬGM作物も開発されたが、結局、同じように耐性を持つ害虫が発生してしまう。遺伝子組み換え作物が、食料不足に対する画期的な解決策になるという夢は幻想になりつつあるのだ。
さらに、米国カリフォルニア州などでは、除草剤ラウンドアップの主成分であるグリホサートで、癌を発症したとして、グローバル種子農薬企業に多額の賠償判決がいくつも下り、世界的にグリホサートへの規制が強まりつつある。
日本ではGM作物の商業栽培は行われていないから、米国などのように、大豆やトウモロコシにラウンドアップを直接散布することは基本的にはない。だが、米国では大豆、トウモロコシ、小麦に直接散布して収穫する(小麦は米国もGMにはしていないが、乾燥のため小麦に散布して収穫する)。日本は世界で最も米国の穀物に依存しており、輸入品を通じて、GM作物とグリホサートを世界で最も摂取している国の一つではないだろうか。例えば、国産大豆や国産小麦を使用していない、日本の醤油、大豆油、食パンなどからはグリホサートが検出される。
世界的にグリホサートへの規制が強化される中、2017年末、日本はグローバル種子農薬企業の“ラストリゾート(最後の儲けどころ)”にされるかのように、世界の動きに逆行してグリホサートの残留基準値を極端に緩和した。小麦は6倍、蕎麦は150倍だ。日本人が食べても耐えられる基準が、なぜいきなり100倍に跳ね上がるのか。残念ながら日本人の命の基準値は米国の要請で決まると思わざるを得ない。
2023年4月からは、日本で「遺伝子組み換えでない(non-GMO)」の任意表示が実質できなくなる。もしnon-GMO表示の豆腐から、ごく微量でも遺伝子組み換え大豆の痕跡が見つかったら、業者を摘発することになったからだ。流通業者の多くは輸入大豆も扱っているから、微量混入の可能性は拭えない。これを日本にやらせたのもグローバル種子農薬企業だ。non-GMO表示はGM食品を危険だと消費者に思わせる「誤認表示」だというのだ。その要求通りに消費者庁が動いて、表向きは「消費者を守るための表示の厳格化」といいながら、実態は、できるだけGMでない食品を扱おうとする業者を駆逐して、消費者がnon-GMO商品の選択をできなくするものである。
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source : 文藝春秋 2023年2月号