NHKは誰のもの?

炎上と分断を超えて

鎌田 靖 ジャーナリスト
ニュース 社会
鎌田靖氏

 2023年1月末で任期満了となる前田晃伸会長は、「スリムで強靱なNHK」改革を進めたものの、その改革内容は、内外から批判の声が多かった。この『文藝春秋』でも、職員有志一同が「前田会長よ、NHKを壊すな」と題した記事を寄稿(22年6月号)。前田会長は、「放送」「技術」「管理」の職種別採用を廃止し、災害報道に重要なヘリコプターの経費削減、ベテラン職員のリストラを行なっている。このままでは公共放送の務めを果たせなくなると、職員たちは切実に訴えていた。

 OBの一人として、現場職員が、NHKの現状を憂う気持ちはよく理解できる。実際、何人もの優秀な記者が退局したとも聞く。赤字部門を次々コストカットする銀行マン的な企業改革がNHKに適しているか、私も疑問に思う。たとえば全国各地に報道用ヘリコプターを備えていることは、一見、「無駄」にうつるかもしれない。だが、NHKは受信料を払う視聴者のための公共財であり、民間メディアと異なる存在意義がある。災害報道、国会中継、障害者向け番組など、たとえ視聴率が取れなくとも重要な報道を伝える役割を担っている。それこそが公共放送たる所以であり、国民から受信料をいただいている理由に他ならない。

 ただ、改革に対する職員有志の声が国民の共感を得られたかといえば、それはまた別の問題だ。担当番組がなくなり、リストラが自分の身におよぶ職員が「将来が不安だ、どうしよう」と、泣き言を口にしているようにも聞こえた。そもそも、物価高などで苦しい生活が続いているなかで職員はかなり恵まれたほうだ。スリム化の美名によってNHKがいかにして破壊され、それが国民の生活にどのような影響を及ぼすのか明確に示さなければ、NHKの必要性は世間に伝わらないだろう。

NHK次期会長の稲葉延雄氏 ©時事通信社

 では、今のNHKに求められる改革とは何か。まず、インターネット時代のNHKのあり方について考えたい。イギリスでは公共放送のBBCが「デジタル・ファースト」を掲げ、子供向け番組をオンラインのみの配信に移行した。NHKも、20年から常時同時配信・見逃し番組配信サービス「NHKプラス」を始めたが、ネット事業拡大に対し民放から「民業圧迫だ」と批判が出ている。

 私は民放と「協調」路線を取るのが望ましいと思う。日本はNHKと民放の「二元体制」で視聴者に多様な番組を提供してきた。動画配信サイトでNHKの番組だけしか見られないのは視聴者の利益に適っているとはいえない。NHKと民放の番組が横断的にみられるサイトを増やすべきではないだろうか。そのために受信料を充てることも検討すべきだ。

「こどもニュース」での経験

 それから、政治との関係は、今、最も必要な改革だ。

 NHKの政治報道が、与党へ忖度しているとの批判が高まっている。従来、NHKは、潤沢な経費を使って、民放より多くの記者を各クラブに配置している。いまこそ政権や与党に忖度しない報道、番組作りの気概を見せてほしい。

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source : 文藝春秋 2023年2月号

genre : ニュース 社会