沈みゆく島で詩を唄う

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 日本のみなさん、はじめまして。私はマーシャル諸島出身の詩人です。2014年、国連気候変動サミットでの詩の朗読をきっかけに、環境問題への発信を続けています。

「若い環境活動家が世界の認識を変えつつある」とキジナーさん(本人提供)

 赤道の北側、北太平洋に浮かぶ「真珠の首飾り」と呼ばれる小さな島々が私の故郷。サンゴ礁が連なる環礁の島々は、国土が狭く、低く平らで山がありません。海に由来する独特の文化が維持され、人びとは太平洋の「もっとも優れた航海士」と呼ばれます。編み物のような手工芸や口承文化の伝統も残っています。

 山も丘もないということは、逃げられる場所がなく、脆弱な土地であるということ。航海をし、食糧を得て子どもたちが遊ぶ海は、同時に、脅威でもあり続ける。頻発する「king tide」(高潮)により、家は浸水し、生活の糧となる木々も塩と干ばつの影響で枯れています。

「国土が沈む」

 2030年、もう目前となったこの近い未来に、科学者たちはこう予測しています。私たちはこの忌々しき未来を変えようと必死で考え続けています。国土全体に盛り土をし、防波堤を作る案もある。でもそれは、共同体に大きな負担と変化を強いるもの。島の伝統的な暮らしには温暖化の進行への責任の一切がなくても、温暖化で真っ先に消えるのは私たちの国なのです。

 日本から遠く離れたこの国ですが、じつは歴史的に深い関係があります。スペイン、ドイツ領を経て第一次大戦後には戦勝国である日本の植民地となり、多くの日本人が渡来。島民には日本語教育も行われ、「アミモノ」はマーシャル語になっています。日本兵がマーシャル人との間に子どもを作り、認知せず帰国するケースも少なからずありました。私の曾祖父も日本人ですが、家族の誰もその話をしたがりません。日本軍の占領拠点だった「ジャルート(ヤルート)環礁」には、日本兵とマーシャル女性の悲恋の伝説がいくつも残ります。中でも「ローロー」は有名です。恋人の日本兵との別れを嘆く女性は、彼を追って空に舞い上がり、彼の故郷へ飛んで桜を摘んで帰ってきた、そんな言い伝えです。

 第二次大戦で島は戦地となりました。パールハーバー以降、上空には飛行機が行き交い、日米大戦に巻き込まれた多くの島民が爆撃の犠牲となり、日本兵とともに飢餓にも苦しみました。戦後には、私たちの海はアメリカの核実験場となり、たくさんの島民が死の灰を浴びたのです。

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source : 文藝春秋 2023年5月号

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