「不逮捕特権」の歴史
「両議院の議員は、法律の定める場合を除いては、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば、会期中これを釈放しなければならない」。日本国憲法第五〇条だ。不逮捕特権の定めである。起源は大革命前後のフランスにあるだろうか。本書はそこを掘り下げる。誠実な研究である。
1789年6月。大革命勃発の前月。聖職者と貴族と平民の三身分を代表する議員によって開催中の全国三部会はこう宣言した。「代議士によるいかなる提案、意見の表明、信条の表明、あるいは演説を理由としてその代議士の司法上の責任を追及し、捜索し、逮捕し、勾留することはできない」。何しろ革命間近の混乱期。三部会としては王権を抑えつつ政治経済を大胆に変革したい。しかし国王にもまだ力が残る。議会は弾圧されかねない。そこで三部会は議員の不逮捕を決議した。それからすぐ大革命。議員を脅かすのは王よりも暴力的民衆になる。不逮捕特権にテロからの安全保障が付け加わる。
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source : 文藝春秋 2023年5月号