私の人生を決めた本とは何か? 私の人生が(1)未知の土地を探検し、(2)謎を解き明かし、(3)それを面白く書くことに終始していることを考えると、この3要素に影響を与えた本ということになる。
もっとも本を読んで直接感化されたことはない。むしろ、じわじわと自分の心身に染みてきて、だいぶ後になってから「すごく影響を受けていたんだな」と気づく場合がほとんどである。
まず幼少期。物心がつく前から幼稚園に通っている頃までずっと、母に絵本や児童書の読み聞かせをしてもらっていたという。このおかげで、私の脳内には言葉が文字ではなく音のリズムで刻まれたようだ。
お気に入りの本は水上勉の『ブンナよ、木からおりてこい』(現在は新潮文庫で入手可)だった。冒険好きのトノサマガエルが高い木の上で体験する、恐ろしくも魅力的な日々を描いた作品である。これはくり返し読んでもらっただけでなく、小学校にあがると自分で何度も読んだ。耳で聞いた音のリズムが、ここで視覚とつながったのだと思う。私の文章力を最も鍛えたのはブンナだったかもしれない。
探検冒険を通して新しい世界観を得るという物語内容も、私が書いている本と同じだ。実際、この作品は子供向けでありながら、大人が読んでも深い内容である。
小学校高学年以降も探検冒険の本が好きだった。なぜか実在の探検家・冒険家の話には興味が湧かず、フィクションの世界に親しんでいた。最高に好きだったのは、ヒュー・ロフティングのドリトル先生シリーズだ。
ドリトル先生は今でも私にとって理想の探検家である。なにしろ彼は人間ばかりか動物の言葉も自由に操る言語の天才。探検の方法も力ずくでなく、地元の人や動物たちをリスペクトしながら仲良くなっていく。
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source : 文藝春秋 2023年5月号