壮大な未来史の『銀河帝国の興亡』(I・アシモフ)に魅せられた。SF児童だった。『氷河期が来る』(根本順吉)はずだった当時、『ワースト』(小室孝太郎)や『日本沈没』(小松左京)など破局譚にも影響され、世の中のために何かしなければと思うようになった。
街では傷痍軍人のアコーディオンが物悲しく、戦争の傷跡もまだ身近に感じられた。担任の先生の「資源がない日本は君たちが支えていけ」は、高度成長の時代精神だった。
遥かな時空に思いを馳せつつ、手近な空へ飛ばす模型飛行機に熱中した時期もあった。今もドローンや空飛ぶ車に未来を見たり、『航空力学「超」入門』(中村寛治)など齧ったりするのは、往時の興味が甦ったのだろう。
好奇心の対象が外国語に移った時期がある。母によれば幼児の頃は街で見かける漢字の読み方を手当たり次第に知りたがったそうなので、文字に関心があったらしい。方言差に揉まれた転校生が中学で初めて触れた英語は、もの珍しい音だった。マーシャ・クラッカワー先生の麗しい声に惹かれて「NHKラジオ基礎英語」を聴いた頃もある。
しかし、新奇な音韻や目新しい文字に惹かれただけだったので、すぐに浮気した。図書館に行っては『世界言語概説』(市河三喜他)を眺め、『外国語の学び方』(渡辺照宏)も座右に置いた。『20カ国語ペラペラ』(種田輝豊)は、最近復刊されて我が意を得た。
ただ、英語でペラペラ話したいとはつゆ思わず、通訳を使うから英語など勉強しないと宣言して父に叱られたこともある。人生観に響いた『The Old Man and the Sea』(E.Hemingway)や、只管朗読(國弘正雄)のおかげで、試験は何とかなっていた。
外国への憧れもなかったが、外国人の物の考え方への関心はあった。言語によって世界の切り取り方が違うことは『ことばと文化』(鈴木孝夫)から学んだ。なぜ太平洋戦争を戦うようになったのか考えるためにも、英語世界は知りたい気がした。半年だけ英語学校に通ってみたのも、生身の英米人と接するためだった。君は日本語では余り喋らないのに英語だと良く喋るねと、後年、通訳をした上司から言われた。
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source : 文藝春秋 2023年5月号