八月の“告白”から始まって九月の社長謝罪を経て爆発した感じの朝日タタキだが、叩く側の想いもわからないではない。叩く側、それもとくに産経新聞は、以前から相当に厳密な検証に基づいた反論を展開してきたからで、彼らにしてみれば、ようやく誤報を認めたか、ついに社長も謝罪したか、と思ったとて当然である。
しかし、反朝日側には、次の一事は忘れないよう願いたい。つまり、目的はあくまでも、朝日の誤報によって悪化した海外からの日本への評価の改善にあり、朝日非難はその前段階にすぎないことを忘れないでほしいということだ。
朝日新聞の論調が他紙に比べて海外への影響力が強かったのは、外国人記者たちが朝日の記事を読み、良質だから信用置けると判断したからではない。日本では朝日新聞だけが、先進諸国のクオリティ・ペーパーと提携関係にあるからだ。ニューヨーク・タイムスやロンドンのタイムス、イタリアではコリエレ・デッラセーラの各紙だが、販売部数では二位や三位でも報道とそれに基づいた論調の質ではナンバーワンと自負しているのが、これらクオリティ・ペーパーの記者たちである。それで、自分たちと提携しているからには朝日もクオリティ・ペーパーにちがいなく、その朝日に載った記事ならば頭から信用して紹介してきた、というのが実情であった。この種の特権には、産経はもちろんのこと読売でも浴していない。ゆえに、いかに産経が執拗に反論を掲載しようと海外の報道人の眼にはふれなかった、としてもよいくらいである。
ならば、その朝日が誤報を認めたからには提携先の海外各紙も論調を改めるのか、と問われたら、残念ながらNOと答えるしかない。
朝日の告白や謝罪等々の一連の騒動は、彼らにしてみれば日本人の間に起きた騒動にすぎない。またインテリとは、自負すればするほど一度染められた考えに縛られる性向を持つ。そのうえ帝国主義を経験してきた彼らにとって戦場での女の存在は歴史的な現象であり、問題は唯一、国による強制的な連行の有無にあったのだ。その問題には朝日もいまだに、広い意味での強制性はあった、と言いつづけているのである。ゆえに、いかに朝日が英文で誤報の事実を発信しようと、読み過ごされてしまう可能性のほうが大きい。
ただしその朝日が廃刊になろうものなら、彼らはいっせいに報道するだろう。安倍政権とその同調者による日本の右傾化は日本の良質な新聞まで廃刊に追いこんだとして。今回の騒動の本質はあくまでも誤報の有無にあり、右派とか左派とかはまったく関係ない。だからこそ、それにつながる怖れのある言質は、絶対に与えてはいけない。
一連の朝日叩きでは言及されることの少なかった関係者全員の国会招致だが、この実現こそが今回の騒動を日本の国益に転化させる好機と思う考えは変わっていない。
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source : 文藝春秋 2014年11月号