「人は二度死ぬ」と、よく言われる。一度目は本当に死去した時。二度目は死去から時間がたち、生きている人たちの口にのぼらなくなったり、忘れられたりした時である。
私の母には「隆」という名の兄がいた。私の伯父にあたる。この話は昨年、他でも書いたのだが、一人でも多くの人に読んで頂きたくて再度書く。
長男の隆は母が結婚する前に出征し、戦死している。当然、私は会ったこともない。秋田の祖父母宅に行くと、座敷に軍服姿の遺影があり、二十代の姿を目にするだけだった。
昨年、私が秋田テレビに出演した時、プロデューサーから「秋田魁新報」のコピーを手渡された。
「これ、もしかしたら、内館さんのお祖父様が出した広告じゃないですか」
それは隆の死亡広告だった。私は戦後七十七年もたつ昨年、初めて読み、母の兄の死に方を知った。
祖父はかつて「報知新聞」が一般紙だった頃の記者であり、書く仕事は多かったと思う。だが、抑制して淡々とした死亡広告文は、若い息子を失った全国の親たちの慟哭が行間から聞こえる。私は「戦死」というものが初めて身にしみた。
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source : 文藝春秋 2023年9月号