忖度の果てに(1)

ムーンサルトは寝て待て 第4回

内館 牧子 脚本家
ニュース 社会 教育
イラスト・題字=紙谷俊平

 日本語の乱れについてよく耳にする。

 私も「イヤな言い方だなァ」と思う言葉は多く、「乱れ」だと考えていた。だが、ふと気づいた。根っこは社会の「同調圧力」で、それに忖度した結果が「乱れ」や「イヤな言い方」をもたらしたのではないかと。

 昨今のイヤな言い方を考えると、傾向が見えてくる。重要なこととして、「自分はへりくだること」「まずは他者を尊ぶこと」「他者に合わせること」があるように思う。周囲が「そうしなさい」と言っているわけではない。だが、そうしないと自分だけ浮いたり、失礼な人に思われそうだ。特に、若い人は合わせないと生きにくいのではないか。

 私は最近の「様」「さん」のつけ方は常軌を逸していると思う。とにかく、他者に対してはことごとく「様」「さん」をつける。そうでないと、他者を尊んでいないように思われる。「呼び捨て」だと思われる。

 以下は、すべてテレビや活字媒体で実際に私が見聞きした事例である。

 ある会社が移転し、管理職が言った。

「従業員さん同士がソーシャルディスタンスを取れるように考えまして」

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source : 文藝春秋 2023年10月号

genre : ニュース 社会 教育