夏がくれば思い出す、小五の林間学校。キャンプファイヤーに備えて、私達はひと月前から定番曲の暗唱に勤しんでいた。『遠き山に日は落ちて』『若者たち』『燃えろよ燃えろ』……班ごとに壇上に上がらされ、途中でつっかえれば、体育館の周りをぐるぐる走らされ、再び壇上へ。楽しいキャンプファイヤーを迎えるためにさえ、血の出るようなプロセスを踏んでしまう、暮れゆく昭和の教師と子供。
題名を聞けば全員がフルコーラスを機械的に歌える体制で迎えた当日の午後。宿舎の食堂に、フォークギターを抱え、バンダナを巻いた見慣れぬ男が現れた。
「今日は、〇〇小から来てくださったモトハシ先生にお世話になります」
と、特訓を仕切っていた教師はそのフォーキーな男を紹介した。
「イエーーイ! みんな、こんにちは! 林間学校エンジョイしてるか〜?(♪ジャカジャカジャカジャカジャーン)」
「……」
状況がわからなかった。「誰かにお世話になる」なんて聞いていなかったからだ。
有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。
記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!
初回登録は初月300円
月額プラン
1ヶ月更新
1,200円/月
初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。
年額プラン
10,800円一括払い・1年更新
900円/月
1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き
有料会員になると…
日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!
- 最新記事が発売前に読める
- 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
- 編集長による記事解説ニュースレターを配信
- 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
- 電子版オリジナル記事が読める
source : 文藝春秋 2023年10月号