夏がくれば思い出す、小五の林間学校。キャンプファイヤーに備えて、私達はひと月前から定番曲の暗唱に勤しんでいた。『遠き山に日は落ちて』『若者たち』『燃えろよ燃えろ』……班ごとに壇上に上がらされ、途中でつっかえれば、体育館の周りをぐるぐる走らされ、再び壇上へ。楽しいキャンプファイヤーを迎えるためにさえ、血の出るようなプロセスを踏んでしまう、暮れゆく昭和の教師と子供。
題名を聞けば全員がフルコーラスを機械的に歌える体制で迎えた当日の午後。宿舎の食堂に、フォークギターを抱え、バンダナを巻いた見慣れぬ男が現れた。
「今日は、〇〇小から来てくださったモトハシ先生にお世話になります」
と、特訓を仕切っていた教師はそのフォーキーな男を紹介した。
「イエーーイ! みんな、こんにちは! 林間学校エンジョイしてるか〜?(♪ジャカジャカジャカジャカジャーン)」
「……」
状況がわからなかった。「誰かにお世話になる」なんて聞いていなかったからだ。
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source : 文藝春秋 2023年10月号